コラム

香港人は「香港民族」、それでも共産党がこの都市国家を殺せない理由

2019年09月02日(月)12時15分

いわく、中国大陸と隔絶した台湾には「善良な人(共産党の善し悪しが分からない人のことだ)」が多く、「中国を正しく理解している」のに対し、香港は「反共基地」であり続けた。下野するまで台湾を支配した国民党は共産党と一卵性の双子兄弟のような存在で、どちらもソ連の援助でつくられた民族主義政党である。敵対してきたとはいえ、独立に傾斜することはない。

これに対し、香港人は漢族ではなく「野蛮人の百越の子孫」だ、との差別的な見方が中国当局側にある。その「野蛮な百越」に筋金入りの「反共分子」が加わり、さらに「英国帝国主義の悪しき教育を受けた」ために、香港の離反が加速している、と北京は認識している節がある。

それでも、共産党政権は香港を利用してきた。香港を窓口にして西側の情報を収集し、金融センターとしての利点を十二分に活用。先端技術と豊富な資金を延々と本土に吸い上げた。

ただし自分が強くなったので香港を切り捨てるかというと、そうもいかない。北京にとって、情報収集窓口や金融センターとしての利用価値は下がりつつあるが、それ以上に重要なのは香港が共産党高官たちの「蓄財の要塞」として機能している点だ。

国家主席の習近平(シー・チンピン)を含め、共産党政権の高官たちはほぼ例外なく香港に不正に獲得した財産を隠匿している、と報道されている。「祖国内部に不正蓄財」するわけにいかないので、彼らは今後も「半死」状態の香港に、限られた「繁栄と自治」を与え続けるだろう。

となると「香港民族」の都市国家建設の夢も消えないが。

<2019年9月10日号掲載>

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プロフィール

楊海英

(Yang Hai-ying)静岡大学教授。モンゴル名オーノス・チョクト(日本名は大野旭)。南モンゴル(中国内モンゴル自治州)出身。編著に『フロンティアと国際社会の中国文化大革命』など <筆者の過去記事一覧はこちら

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