最新記事
南シナ海

「中国の覇権主義と南シナ海」大胆かつ挑発的になる中国海軍と戦争勃発の日をインド戦略研究者が予想する

THE APPROACHING WAR

2024年3月25日(月)16時40分
ブラマ・チェラニ(インド政策研究センター教授)
中国の覇権主義と「南シナ海戦争」の道

中国海警の艦船(2023年2月) CFOTO/Sipa USA via Reuters Connect

<中国の南シナ海における軍事的な行動はフィリピンやベトナムそして国際社会の最大の脅威に。中国の拡張主義を回避し抑え込む方法はあるのか?>

インド太平洋における領土・領海の現状を覆そうとする中国のひそかな活動は、既に10年以上に及んでいる。

そのせいで地域内のオーストラリアやインド、日本、台湾、東南アジア数カ国、さらにアメリカとの緊張は高まる一方だ。

アメリカが欧州や中東での戦争に視線と資源を注ぐなか、最近の中国は攻撃的な拡張主義を一層強めている。中国が地域覇権を握るシナリオが現実になる日は、かつてなく近い。

中国は台湾に対して、習近平(シー・チンピン)国家主席が掲げる「再統一」方針の下、手を替え品を替え圧迫を加えている。

戦争の暗雲はヒマラヤ山脈にも漂い、中国とインドが国境を争う一帯では4年近く前から、中国側の相次ぐ侵入が招いた軍事的膠着状態が続く。

東シナ海では、尖閣諸島の領有権を主張する中国が領海・領空侵犯を繰り返し、日本の軍備強化に拍車をかけている。

だが最大のリスクが潜むのは、中国の攻撃的な行動が、米軍の艦船や航空機などとの危険な「ニアミス」を頻繁に引き起こしている南シナ海だろう。

中国は長らく、この海域で支配的立場を固めようと試み、南シナ海の豊富な資源、および世界の海運の3分の1が通航する戦略的地理条件を利用すべく執拗な取り組みを続けてきた。

今や南シナ海では、中国の海軍や空軍が近隣国の排他的経済水域(EEZ)を定期的に巡回し、世界最大で最も重武装の沿岸警備隊である中国の海警総隊が、他国のオフショア油田・ガス田を勝手にパトロールしている。

巨大メガシップを含む海警総隊の艦船は、「非致死性」兵器の高圧放水砲や長距離音響装置をやみくもに使用する。

さらに、中国は海軍や海警総隊を派遣して船舶の尾行や追跡、嫌がらせを行っている。

アメリカ船籍の船のほか、南シナ海で中国と領有権を争うフィリピンやベトナムの船舶がその対象だ。漁船でさえも標的にされ、破壊されている。

南シナ海での中国の軍事化はフィリピンとベトナムにとって最大の脅威だ。

ベトナムは独自の外交政策を追求するが、フィリピンはアメリカの長年の同盟国で、1951年に相互防衛条約を締結した相手だ。

それにもかかわらず、南シナ海での中国の動きに関して、アメリカは主にフィリピンの自助努力に任せている。

2012年、フィリピンのEEZ内にあるスカボロー礁の実効支配に中国が乗り出した際、当時のオバマ米政権は沈黙したままだった。

それ以来、フィリピンのEEZのほかの区域でも中国による切り崩しが着実に進むが、アメリカはフィリピン支持を表明するだけだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

北朝鮮の金与正氏、日米韓の軍事訓練けん制 対抗措置

ワールド

ネパール、暫定首相にカルキ元最高裁長官 来年3月総

ワールド

ルイジアナ州に州兵1000人派遣か、国防総省が計画

ワールド

中国軍、南シナ海巡りフィリピンけん制 日米比が合同
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 6
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で最も「火山が多い国」はどこ?
  • 9
    村上春樹は「どの作品」から読むのが正解? 最初の1…
  • 10
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 10
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中