最新記事
中東

イスラエル奇襲攻撃の黒幕、ハマスのデイフ司令官とは何者か?

2023年10月12日(木)20時55分
ロイター
ガザから撃ち込まれたロケット弾の残がい

イスラエルは、先週のイスラム組織ハマスによる大規模攻撃を「我が国の9.11」と呼ぶ。一方、攻撃の首謀者とされているハマス軍事部門のムハンマド・デイフ司令官は、この攻撃を「アルアクサの洪水」と名付けた。写真はイスラエル・アシュケロンの路上に残る、ガザから撃ち込まれたロケット弾の残がい。10日撮影(2023年 ロイター/Amir Cohen)

イスラエルは、先週のイスラム組織ハマスによる大規模攻撃を「我が国にとっての9.11」と呼ぶ。一方、攻撃の首謀者とされているハマス軍事部門のムハンマド・デイフ司令官は、この攻撃を「アルアクサの洪水」と名付けた。

イスラエルが最重要の標的とみなすデイフ司令官は、謎に満ちた存在だ。

同司令官は7日、ハマスが数千発のロケット弾をガザ地区から発射するのと同時に録音済みの談話を放送。この中で、今回の襲撃をこの表現で呼び、これがエルサレムのアルアクサ・モスクにイスラエルが侵入したことに対する報復であることを示唆した。

イスラエルは2021年5月、イスラム教において3番目に神聖な場所である同モスクを襲撃し、アラブとイスラム世界を激怒させた。ガザにいるハマスに近い関係者によれば、イスラエル側に1200人以上の死者と2700人以上の負傷者を出した今回の攻撃についてデイフ氏が計画を練り始めたのは、これがきっかけだったという。

「イスラエルはラマダン(断食月)の最中にアルアクサ・モスクを襲撃し、参拝者を殴打、襲撃し、高齢者や若者をモスクから引きずり出した。そうした光景や映像が、攻撃の引き金になった。何もかもが怒りに火をつけ、油を注いだ」と、この関係者は説明した。

この襲撃の前に、イスラエル警察はエルサレム旧市街の周辺にバリアを築いていた。イスラエル側は秩序を維持するためとしたが、パレスチナ人はラマダン中に集会の自由を制限するものだとして反発。周辺に住むパレスチナ人たちが、自宅から強制的に退去させられるのではないかと不安を募らせたことも緊張を悪化させた。

アルアクサ・モスクはエルサレムの主権と宗教の問題をめぐって長年にわたり暴力の発火点となってきたが、このときの襲撃を機に、イスラエルとハマスの間で11日間にわたる戦闘が起きた。

それから2年以上を経た今回の攻撃は、1973年の第4次中東戦争以来、イスラエル国防上の最悪の失態となった。これを受けてイスラエルは戦争状態を宣言し、ガザ地区に対する報復攻撃を開始、1055人上を殺害し、5000人を負傷させた。

イスラエルは11日には、ガザから侵入してきたパレスチナ人の武装集団員を1000人以上殺害したと表明した。

イスラエル側はこれまで7回、直近では2021年にもデイフ氏暗殺を試みたが、同氏はいずれも切り抜けてきた。めったに発言せず、公の場にも姿を現さない。だからこそ、ハマスのテレビ局が7日、「デイフ氏が演説を行う」と発表した時、パレスチナ人は何か重大なことが進行中だと悟った。

デイフ氏は録音された音声で、「今日、アルアクサの怒り、人民と国家の怒りが爆発する。我らがムジャヒディン(イスラムの戦士)たちよ、今日はこの犯罪者に、その時代が終わったと思い知らせる日だ」と語った。

デイフ氏の画像は3点しか存在しない。20代の頃の姿とマスクを着用した姿、そして今回の音声が放送された時に使われた影の画像だ。

デイフ氏の所在は不明だが、ガザ地区に迷路のように張りめぐらされた地下トンネル内に潜んでいる可能性が高い。イスラエルの治安関係者は、デイフ氏が攻撃の計画・作戦の両面に直接関与していたと述べた。

パレスチナの消息筋によると、イスラエルに空爆されたガザの住宅のうち1軒はデイフ氏の父親が所有していた。デイフ氏の兄または弟のほか、親族2人が死亡したという。

編集部よりお知らせ
ニューズウィーク日本版「SDGsアワード2025」
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ロシア、北朝鮮にドローン技術移転 製造も支援=ウク

ビジネス

米6月建設支出、前月比0.4%減 一戸建て住宅への

ビジネス

米シェブロン、4─6月期利益が予想上回る 生産量増

ビジネス

7月ISM製造業景気指数、5カ月連続50割れ 工場
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプ関税15%の衝撃
特集:トランプ関税15%の衝撃
2025年8月 5日号(7/29発売)

例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 3
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿がSNSで話題に、母親は嫌がる娘を「無視」して強行
  • 4
    カムチャツカも東日本もスマトラ島沖も──史上最大級…
  • 5
    【クイズ】2010~20年にかけて、キリスト教徒が「多…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    これはセクハラか、メンタルヘルス問題か?...米ヒー…
  • 8
    一帯に轟く爆発音...空を横切り、ロシア重要施設に突…
  • 9
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 10
    ニューヨークで「レジオネラ症」の感染が拡大...症状…
  • 1
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 2
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜つくられる
  • 3
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経験豊富なガイドの対応を捉えた映像が話題
  • 4
    日本人の児童買春ツアーに外務省が異例の警告
  • 5
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
  • 6
    中国が強行する「人類史上最大」ダム建設...生態系や…
  • 7
    いま玄関に「最悪の来訪者」が...ドアベルカメラから…
  • 8
    枕元に響く「不気味な咀嚼音...」飛び起きた女性が目…
  • 9
    【クイズ】1位は韓国...世界で2番目に「出生率が低い…
  • 10
    航空機パイロットはなぜ乗員乗客を道連れに「無理心…
  • 1
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失った
  • 2
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅で簡単にできる3つのリハビリ法
  • 3
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が話題に
  • 4
    幸せホルモン「セロトニン」があなたを変える──4つの…
  • 5
    囚人はなぜ筋肉質なのか?...「シックスパック」は夜…
  • 6
    「細身パンツ」はもう古い...メンズファッションは…
  • 7
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 8
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップ…
  • 9
    ロシアの労働人口減少問題は、「お手上げ状態」と人…
  • 10
    いきなり目の前にヒグマが現れたら、何をすべき? 経…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中