最新記事

宗教

「ベルトでお尻を叩かれた」「大学進学は罪」──宗教2世1131人に聞く宗教的虐待の実態

2022年11月22日(火)11時00分
荻上チキ(評論家、社会調査支援機構「チキラボ」代表)

国会でのヒアリングで被害体験を話す宗教団体「エホバの証人」3世の夏野ななさん(仮名、左端)と、調査報告を行うチキラボメンバーら(写真提供:社会調査支援機構チキラボ)

<宗教的虐待とは何か。宗教2世に対する虐待行為に対処するには、教育ネグレクトや経済的虐待を含め、幅広い議論が必要になると「社会調査支援機構チキラボ」の代表・荻上チキ氏は言う。同団体が当事者1131名を対象に行った調査から、集団的な虐待推奨の実態が浮かび上がった>

世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題を中心に、今、さまざまな「宗教2世」当事者が声を上げている。いや、もともとあげられていた声に、世の中が耳を傾け始めている。だが、政府はどこまで、「聞く力」を持っているのだろうか。

11月18日、政府は消費者契約法の改正案や、被害者救済法などの概要を示した。それらを見て受けた印象は、「できる限り最小の一歩しか、進めるつもりがないのか」「可能な限り骨抜きにするのだろうか」というものだった。もしかして政府は、この期に及んで、問題の根深さを直視できていないのではないか。

例えば「寄付上限」の線引きが、「居住する建物を売却したり借金をするよう求める行為」である点は問題だ。これでは、「口座満額寄付」は「過度な献金ではない」などと解釈されうる懸念がある。

また、マインドコントロールの問題については、概要にすら盛り込まれてすらいない。「今国会には間に合わない」という言い分が行われるのであれば、理解はできなくはない。その場合は最低限、「今国会ではこれを、次の国会ではこれをやります」というロードマップを示すことが必要となるはずだ。

初手段階で、政府の消極性が見えてしまう状況に絶望しそうではある。だが、議論が不十分な点は他にも多くある。

例えば、宗教的虐待について、通達のみで済ませるのではなく、児童虐待防止法に明記できないのか。旧統一教会以外にも、たとえば継続的・集団的に虐待推奨を行なってきたような宗教団体など、問題のある宗教法人はいくつかあるが、そうした団体の2世らも救済の視野に入っているのか、などだ。

筆者が代表を務める社団法人「社会調査支援機構チキラボ」では2022年9月、宗教2世の実態調査を行った。有効回答数は、1,131名。調査内容は報告書にまとめ、ウェブ上で無償で公開している。また、11月25日には、調査のまとめも掲載された書籍『宗教2世』(太田出版)が発売となる。niseibookthumbnail_obi.jpg

調査結果については記者会見も行い、国会のヒアリングでも説明した。現在は、各党議員に、調査でわかった知見を伝える活動を行っている。

この実態調査から分かったことは、いまメディア等で声を上げている宗教2世の体験は決して特殊なケースでもなければ、個別家庭の問題にとどまるものでもなく、多くの2世が共有しているものであるということだ。また、そこで求められている対策(虐待対策や自立支援他)は、多くの当事者が求めているものと重なっていることが確認できた。

被害者は具体的に何を求めているのか。まずはそれを可視化するため、この記事では、ラボの調査のなかで見えてきたもののうち、まだあまり論点化されていないものについて整理していこうと思う。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ブラジル中銀が金利据え置き、2会合連続 長期据え置

ビジネス

FRB議長、「第3の使命」長期金利安定化は間接的に

ワールド

アルゼンチンGDP、第2四半期は6.3%増

ビジネス

米大手銀、最優遇貸出金利引き下げ FRB利下げ受け
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、日本では定番商品「天国のようなアレ」を販売へ
  • 2
    中国は「アメリカなしでも繁栄できる」と豪語するが...最新経済統計が示す、中国の「虚勢」の実態
  • 3
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 4
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「リラックスできる都市」が発…
  • 6
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 7
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサイルが命中、米政府「機密扱い」の衝撃映像が公開に
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    「なんて無駄」「空飛ぶ宮殿...」パリス・ヒルトン、…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 10
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中