最新記事

ウクライナ情勢

プーチンも困っている、コントロールの効かない国内強硬派──分岐点は動員令だった

Why Putin Is Escalating the Bombings

2022年10月26日(水)12時15分
ラビ・アグラワル(フォーリン・ポリシー誌編集長)
プーチン大統領

動員兵の訓練施設を視察するプーチン大統領 MIKHAIL KLIMENTYEVーSPUTNIKーKREMLINーREUTERS

<プーチンよりも過激な主張する人たちが国内メディアに増殖し、制御できなくなりつつある。民間人を狙ったミサイル・ドローン攻撃という暴挙に走ったプーチンの立場と厳しい国内事情とは?>

ロシアの対ウクライナ戦争は新たな局面を迎えたようだ。戦場ではロシアの苦戦が続き、一方的に「併合」を宣言した東部や南部では占領地の一部を奪い返されているし、ロシア本土とクリミア半島をつなぐ大橋も爆破された。ロシアにとっては屈辱的な展開だ。

それで大統領のウラジーミル・プーチンは報復を命じ、ウクライナの都市部、それも住宅地や発電所などにミサイルを撃ち込んだ。首都キーウ(キエフ)には朝の通勤時間帯にイラン製の自爆ドローン多数が飛来し、複数の民間人を殺傷した。

いったいプーチンは、この攻撃拡大で何を目指しているのか。次なる展開は何なのか。

こうした疑問について、かつてCIAでロシア・ユーラシア担当の上級アナリストを務め、国家情報会議(NIC)にも在籍したアンドレア・ケンドールテイラー(新アメリカ安全保障センター上級研究員)に、フォーリン・ポリシー誌編集長のラビ・アグラワルが聞いた。

◇ ◇ ◇


――まずは最近の都市部への空爆について。プーチンは何を考えているのか。

10月10日に始まった都市部への空爆はクリミア大橋爆破への報復だ。ロシア軍、とりわけプーチンがこういう方法を選んだのは、ひとえに戦場では劣勢で、報復どころではないからだ。

また民間施設を標的にしたのは、ロシア国内で強硬派の声が大きくなっている証拠だ。都市部の住民を恐怖のどん底に突き落とせば、ウクライナ政府もいずれ折れる、それが勝利の方程式だと、彼らは一貫して主張している。

あんな猛攻を長く続けられるとは思えないし、プーチン自身も空爆は終わりだと言っている。その代わり、彼らは安上がりな自爆ドローンを大量に飛ばしてキーウを攻撃した。

しかも、標的にしたのは社会インフラ、特に暖房や電力関連の施設だ。冬場に向けてウクライナ市民を困らせ、寒い思いをさせ、苦しめる。そうすれば勝てると、プーチンも考え始めた。

――こうした攻撃について、一般のロシア国民はどれくらい知っているのか。

かなりよく知っていると思う。ここ数日のロシア国営メディアでは、一連の攻撃が大々的に報じられている。

今のプーチンは、この戦争の位置付けをひっくり返そうとしている。ウクライナ東南部の領土を一方的かつ不法に併合して以来、彼は国民に対し、これはロシア防衛の戦いだと言っている。

とにかく国民に、この戦争を支持させたい。ロシアは被害者だと思わせたい。だから国内向けには、真の敵はウクライナではなくアメリカだ、西側陣営だと吹聴している。そして国家存亡の危機だと訴えている。

注意したいのは、ロシアには以前から、こうした攻撃を求めてきた強硬派が一定数いるということだ。彼らは今回のような攻撃を見ても、私たちと違って、驚かない。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ユーロ圏インフレは当面2%程度、金利は景気次第=ポ

ビジネス

ECB、動向次第で利下げや利上げに踏み切る=オース

ビジネス

ユーロ圏の成長・インフレリスク、依然大きいが均衡=

ビジネス

アングル:日銀、追加利上げへ慎重に時機探る 為替次
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 5
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 8
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 9
    中国の次世代ステルス無人機「CH-7」が初飛行。偵察…
  • 10
    中国、ネット上の「敗北主義」を排除へ ――全国キャン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中