最新記事

安全保障

台湾海峡めぐる緊張激化 中国との衝突を避けたい米海軍に課題

2022年8月5日(金)19時22分
米空母「ロナルド・レーガン」

7月30日、台湾の南方、フィリピンのサンベルナルジノ海峡を移動する米空母「ロナルド・レーガン」 米海軍提供

ペロシ米下院議長の台湾訪問で米中の緊張が再び高まる中、ペロシ氏が2日の訪台に際し、南シナ海を避けた遠回りの飛行ルートを取り、米軍空母もわざわざ南シナ海を避けて航行するなど、中国との衝突を避けたい米軍の姿勢が浮き彫りになっている。

米軍当局者は繰り返し「自由で開かれたインド太平洋」を支援するための「日常的な」パトロールについて語っている。だが、外交官や駐在武官、安全保障アナリストによれば、台湾を巡る情勢が1996年以来の緊迫度となる中、実態面での課題は多い。

米当局者は今週ロイターに対し、中国に批判的なペロシ議長の訪台前に、不必要に挑発的な配備で問題をエスカレートさせたくはないと語った。

また、中国軍が台湾の領海を含む周辺海域で実弾演習を開始する中、米軍はこのアプローチを維持。ある国防当局者は「ペロシ氏の移動はコントロールできないが、米国の反応はコントロールできる」と語った。

ペロシの移動ルートは中国に配慮していた

ペロシ氏と議会代表団を乗せた米軍機は2日にシンガポールから飛び立った後、南シナ海と海上の要塞化された島々を避け、インドネシアのボルネオ島とフィリピンの東側を通る長いルートを取った。

シンガポールが拠点の安全保障コンサルタントのアレクサンダー・ニール氏は、「通常の飛行ルートは南シナ海上空だが、中国が基地化した島に設置したレーダーやセンサー、妨害装置であふれているため、ペロシ氏としては避けるべきルートだった」と分析。制御不能な緊張の高まりを回避するのが目的だったことが分かると語った。

領有権が争われているパラセル(西沙)諸島とスプラトリー(南沙)諸島に施設を建設後、中国の沿岸警備隊の船舶や軍艦、航空機は日常的に同海域をパトロールし、頻繁に米国をはじめ他国の海軍動向を追跡している。

安全保障アナリストの中には、ここ数十年の中国軍の近代化により、米軍の空母が四半世紀前のように台湾近海で中国軍に挑むことはもはや考えられないとの意見もある。

当時は台湾初の総統直接選挙に対抗してミサイル発射と軍事演習を強行した中国を止めるのに、米空母が台湾海峡を航行するなどで十分だった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

午後3時のドルは154円後半、米雇用統計控え上値重

ワールド

インド総合PMI、12月は58.9に低下 10カ月

ビジネス

プライベートクレジット、来年デフォルト増加の恐れ=

ワールド

豪銃撃、容疑者は「イスラム国」から影響 事件前にフ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 8
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中