最新記事

ウクライナ

悪夢の「ブチャ虐殺」生存者の証言...住宅街で起きた処刑、性暴力、拉致の一部始終

Just a “Tip of the Iceberg”

2022年4月13日(水)17時14分
エイミー・マッキノン(フォーリン・ポリシー誌記者)、メアリー・ヤン(フォーリン・ポリシー誌記者)
ブチャ虐殺の犠牲者

ロシア軍撤収後のブチャに散乱していた遺体は埋葬のため墓地に運ばれた OLEG PEREVERZEVーREUTERS

<キーウ郊外の住宅街で繰り広げられたロシア軍による地獄絵図。ウクライナ各地で市民の殺害や拉致など残虐行為の証拠が続出しているが、それも氷山の一角にすぎない>

ほんの1カ月前まで、ブチャは緑豊かな郊外住宅地だった。治安はよく、あちこちに公園がある。首都キーウ(キエフ)に近いので、庭付きの家に住みたい若くて裕福なファミリーが集まっていた。

だが4月2日の土曜日、この町を奪還したウクライナ軍の兵士が目にしたのは道路に放置された遺体の山。後ろ手に縛られたものもあった。その場で処刑されたに違いない。市長のアナトリイ・フェドルクは米紙ワシントン・ポストに、2つの集団墓地に270人ほどを埋めたと語っている。添えられた写真には、黒い遺体袋や地面から突き出た遺体の一部が写っていた。

キーウの北西に位置するブチャでは、侵攻が始まってすぐ激しい戦闘が行われた。だがロシア軍は激しい抵抗に遭い、少なくとも当座は首都の攻略を断念し、撤退した。市内の目抜き通りには、待ち受けていたウクライナ軍の反撃で破壊されたロシア軍戦車の残骸が散乱している。

「第2次大戦の映画で見るような光景だった」。4月3、4日にブチャを視察したウクライナ国会のキラ・ルディク議員はそう言った。破壊され、わずかに庭のフェンスだけが残った家があった。そこで彼女は、「私たちは平和な人間です」という手書きの看板を見つけた。攻撃するなとロシア兵に呼び掛けるメッセージだったのだろうが、残念ながら「役に立たなかった」。

ブチャで発覚したのは「氷山の一角」

キーウを含む北部戦線から撤収したロシア軍はウクライナ東部に転戦するようだ。しかし、彼らの去った後に残された凄惨な状況はロシア軍による蛮行の証しだ。

しかも人権団体などによれば、ブチャの惨状はまだ「始まり」にすぎない。他のウクライナ地域でも、侵攻したロシア軍による残虐行為が続々と明るみに出ている。

そしてロシアにこの戦争をやめさせるため、ウクライナの同盟諸国がもっと強力な対応をすべきだという声が高まっている。4日にイギリスのエリザベス・トラス外相との共同記者会見に臨んだウクライナのドミトロ・クレバ外相は、ブチャで発覚した残虐行為はウクライナでロシア軍が犯した戦争犯罪の「氷山の一角」にすぎないと糾弾した。

アメリカのジョー・バイデン大統領も同日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は戦争犯罪人であり、その罪は法廷で裁かれるべきだという持論を繰り返した。またウクライナ国防省は、最悪の犯罪が行われたときブチャにいたロシア兵の氏名やプロフィールを公表した(ただし客観的な裏付けはない)。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市氏から連立・首班指名で打診、政策協議始める=吉

ワールド

米国防長官、NATO諸国に武器購入拡大を要求 ウク

ワールド

EU、中国投資に技術移転要求を検討 経済安保強化へ

ワールド

立維国の3党首、野党候補一本化で結論持ち越し 玉木
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 6
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 7
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 10
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中