最新記事

米政治

トランプ主義への対処を誤れば、トランプは「英雄、殉教者、スローガン」になる

ACCOUNTABILITY OR UNITY

2021年1月27日(水)18時15分
スティーブ・フリース(ジャーナリスト)

magSR20210127accountabilityorunity-2.jpg

トランプの弾劾条項に署名するナンシー・ペロシ下院議長(2021年1月13日) LEAH MILLIS-REUTERS

ウォーターゲートを教訓に

その政治課題の大半──追加景気刺激策としての給付金、雇用創出のための大規模なインフラ支出、石炭・鉄鋼業界の労働者にグリーンエネルギー関連企業で必要なスキルを習得させる研修プログラムの構築予算など──は白人労働者階級の多くをトランプ支持に走らせた不安を和らげられるはずだと、バイデン派はみている。

トランプ支持者が広めた、ありもしない「選挙不正」をめぐって2020年の大統領選を再調査する計画はない。

だからといって、バイデンがアメリカ社会の亀裂、特に人種をめぐる亀裂を無視するというわけではない。何らかの成算はあるだろうが、バイデン自身はごくさりげなく触れるにとどめるだろうと、別の側近は言う。

「しかるべき合図、トランプ派に対して彼らの統治者でもありたいというメッセージを送るだろうが、その一方では、白人至上主義を非難し再び脇に追いやる取り組みを支持するはずだ」

だが、そう簡単にはいかないかもしれない。脱急進化を研究しているメリーランド大学のアリー・クルグランスキー教授(心理学)は、バイデンをはじめ民主党幹部はトランプ支持者を辱めたり侮辱したりしないようにするべきだと考えている。

「過激な言葉遣いをトーンダウンし、あらゆる復讐心を軽減することが先決」だとクルグランスキーは言う。「そのためには『選挙が盗まれた』とする人々をはじめトランプに投票した有権者を悪者扱いしないこと。彼らの反感を買えば、再び取り込むことが難しくなる。これまでも党派を超えて協力してきたバイデンなら、資質がありそうだ」

では、恩赦は与えるべきかどうか。

バイデンが直面する問題に唯一似ているのは「長い国家的悪夢」、すなわちウォーターゲート事件だと、大統領史に詳しいテキサス大学のシャノン・オブライエン助教は言う。

リチャード・ニクソン大統領が民主党全国委員会本部侵入事件の隠蔽工作に関与したことが露見。1974年、辞任したニクソンに代わって大統領に就任したジェラルド・フォードは、ニクソンが在任中に犯した連邦法上の犯罪全てに恩赦を与えた。

その直後のギャラップ社の世論調査では国民の53%が恩赦に反対。この恩赦が1976年の大統領選でフォードが民主党のジミー・カーターに敗れた一因だと識者は長年考えてきた。しかし1986年には一転して、フォードは国の前進のために正しいことをしたと考える国民が54%に上った。

事件当時デラウェア州選出の新人上院議員だったバイデンは「彼なりにこれを歴史の教訓とし、フォードが買った反感、恩赦を決断して生じた不信と冷笑主義を避ける選択をするだろう」と、オブライエンは言う。

実際、バイデンは既に恩赦の可能性を排除している。昨年5月、トランプの在任中の財務不正などで捜査の可能性が取りざたされるなか、恩赦の可能性を問われて、バイデンは「一切干渉しない」と答えた。

「司法長官は大統領の弁護士ではない。国民の弁護士だ。司法省がこれほど悪用されるのは前例がない」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ネットフリックス、ワーナー資産買収で合意 720億

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、12月速報値は改善 物価

ワールド

米中が閣僚級電話会談、貿易・経済関係の発展促進で合

ワールド

NYタイムズ、パープレキシティAIを提訴 無断コピ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い国」はどこ?
  • 2
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開きコーデ」にネット騒然
  • 3
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...ジャスティン・ビーバー、ゴルフ場での「問題行為」が物議
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 6
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 7
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 8
    『羅生門』『七人の侍』『用心棒』――黒澤明はどれだ…
  • 9
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 10
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 1
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 2
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 6
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 7
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 10
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中