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権威と闘う筋金入りの反逆児......マラドーナは「最高に人間らしい神」だった

The Words of a Soccer God

2020年12月1日(火)16時20分
星野智幸(作家)

マラドーナが亡くなった直後から、ウルグアイの作家、故エドゥアルド・ガレアーノが10年前に述べた次のような言葉が、ラテンアメリカ中で拡散している。

「マラドーナはずっしりと重い十字架を背負っている。マラドーナである、という十字架を。この世で神でいることは大変きついが、神であるのを辞めることができないのは、もっときつい。全精力を注いで神であり続けなくてはならないのだから。(中略)マラドーナは最高に人間らしい神で、まるで私たちの一人であるかのようだ。うぬぼれ屋で色恋にだらしがなくて打たれ弱い......。みんなと同じじゃないか! だから私たちは、マラドーナの中に己の姿を見る。高みから非の打ちどころのなさを示して私たちを罰する神とは違うのだ。(中略)私たちはマラドーナの素晴らしさに自分を投影するのみならず、その欠点にも自分を映すのである」

とてつもない天才であったとはいえ、20年以上も前に引退した選手に、なぜ私はこんなにも喪失感を抱くのか。それは、言葉の人としてのマラドーナは現役であり続けただけでなく、マラドーナがマラドーナを引退することはあり得ないからだ。

ガレアーノの言うとおり、私はマラドーナの言葉に胸のすく思いをし、そのめちゃくちゃさにあきれつつ、その弱さに共鳴し、遠いはずなのに身近に感じてきた。マラドーナが亡くなることは、その言葉を聞くことができなくなることであり、自分のかすかな一部を失うことなのだ。

でも、と私は言い聞かせる。ファンにとってマラドーナは死なないから。

<本誌2020年12月8日号掲載>

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