最新記事

インタビュー

百田尚樹と「つくる会」、モンスターを生み出したメディアの責任 石戸諭氏に聞く

2020年6月17日(水)12時00分
小暮聡子(本誌記者)

石戸 諭著『ルポ 百田尚樹現象』(小学館) KYOHEI MAMIYA

<大反響特集「百田尚樹現象」から1年。このほど新著『ルポ 百田尚樹現象』を上梓した石戸諭氏に聞く。安倍政権に最も近い作家・百田尚樹を生み出した平成右派運動の末路、そしてメディアの責任とは>

本誌の特集「百田尚樹現象」(2019年6月4日号)から1年。筆者であるノンフィクションライターの石戸諭氏が新著『ルポ 百田尚樹現象――愛国ポピュリズムの現在地』(小学館)を上梓した。2020年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞した特集記事に大幅に加筆した本書について、特集時に編集を担当した本誌・小暮聡子が聞いた。

――新著の刊行、おめでとうございます。校了ゲラをいただいて初めて全体を読み、驚いた。第一部は特集記事を元にしているとは聞いていたが、新たに取材して書き下ろした第二部が圧倒的に面白い。第二部が加わったことにより、第一部と合わせてまったく別の作品に生まれ変わっている。

本書のタイトルは『ルポ 百田尚樹現象』だが、この本は百田現象そのものについてというより、百田現象以前の「新しい歴史教科書をつくる会」の系譜を第二部で掘り下げることで、90年代後半から今に連なる日本の右派ポピュリズムを綿密な取材に基づき描いたノンフィクションだと思う。むしろ本書の副題にある「愛国ポピュリズムの現在地」のほうがメインテーマだろう。

百田氏自身については、ちょうど1年前に本誌で特集を組んだときが『日本国紀』のベストセラーを経てのピークであって、その後は小説家からの引退宣言もしたし、以前よりも存在感が薄れていたと思うのだが。


そんなことはない。百田現象は続いている、というのが僕の見方だ。新型コロナウイルス禍で、2月末に安倍首相と会食したこともネットをにぎわせた。百田さんのツイッターでの発信が常にインターネットでニュースになるのはなぜか。それは彼の発信が、PVにつながるからだろう。安倍首相と会食したらファンが騒ぎ、アンチも騒ぐことになったのが典型だ。

最近は高須クリニックの高須院長らと愛知県の大村知事への「リコール運動」を始めて右派界隈が盛り上がっている。

『日本国紀』への関心というのはなくなったかもしれないが、彼の立ち居振る舞いが社会を魅了していくという「現象」の本質は何も変わっていない。百田さんみたいに、言動が常に物議を醸し、世間の耳目を集める人がこれからも出てくる可能性ももちろんある。それは、右派に限った現象ではない。左派からも出てくるだろう。

――石戸さんは百田さんを、「ごく普通の人」を魅了するポピュリストであると捉えている。

本書にも書いたが、ポピュリズムというのはオランダの政治学者カス・ミュデも言うように、ポイントは対抗運動、対抗言説ということにある。腐敗したエリートへの対峙と、中心の薄弱なイデオロギーというのが特徴であって、ポピュリストには体系的かつ論理的な一貫性はなくていい。

百田さんだって、あれほど安倍首相に近いと言われていたのに、新型コロナへの対応で中国・韓国からの入国を禁止にしなかったことはおかしいと一転して安倍政権を批判した。安倍政権と近いかどうかということは、百田さんにとっては関係ない。自分が思っていることを自分が思うように言っているだけだ。

彼自身にある種のポピュリスト的な才覚があるが、それを無自覚でできているというのが興味深い。自覚はないし、本人の自意識はあくまでエンタメ小説家なので、政治的な影響力を持ちたいとは思っていない。大村リコール運動についても同じで、おそらく立ち上がった高須さんへの義理人情のほうが強いのではないか。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

インドGDP、7─9月期は前年同期比8.2%増 予

ワールド

今年の台湾GDP、15年ぶりの高成長に AI需要急

ビジネス

伊第3四半期GDP改定値、0.1%増に上方修正 輸

ビジネス

独失業者数、11月は前月比1000人増 予想下回る
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 3
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 8
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中