最新記事

米主導の対北朝鮮圧力は崩壊へ? 中ロが制裁緩和でタッグ

2019年12月21日(土)09時39分

中国とロシアは16日、海産物や繊維製品の輸出禁止措置の解除や、北朝鮮からの海外出稼ぎ労働者受け入れの規制緩和を安全保障理事会に提案した。写真は、北朝鮮がミサイルとみられる飛翔体を発射する瞬間を放映した韓国の番組。10月31日、ソウルで撮影(2019年 ロイター/Heo Ran)

北朝鮮の制裁緩和を求めた中国とロシアの国連決議案は、米国への圧力を高めるものだ。北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄するよう、国際社会が結束して説得する努力がついえる可能性も示唆している。

ロイターが入手した決議案によると、中国とロシアは16日、海産物や繊維製品の輸出禁止措置の解除や、北朝鮮からの海外出稼ぎ労働者受け入れの規制緩和を安全保障理事会に提案した。

この提案が出てきたのは、北朝鮮が指定した年末の対米交渉期限が近づく極めて重要なタイミングだった。北朝鮮の対応を巡る国際社会の亀裂が浮き彫りになった形だ。

安保理で拒否権を持つロシアと中国は、北朝鮮に「最大限の圧力をかける」とするトランプ米政権下での制裁決議で、投票の鍵を握ってきた。

米国は、国連制裁の解除を検討するのは早計だと主張。北朝鮮に交渉の再開を呼び掛けている。

中ロは北朝鮮の次の一手を警戒か

米朝が昨年に緊張緩和ムードを醸成して以来、ロシアと中国は制裁緩和への支持を訴えてきた。今回の安保理への決議案提出は、米国への国際的圧力が新たなレベルに入ったことを意味すると、専門家はみている。

[ロイター]


トムソンロイター・ジャパン

Copyright (C) 2019トムソンロイター・ジャパン(株)記事の無断転用を禁じます



20191224issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月24日号(12月17日発売)は「首脳の成績表」特集。「ガキ大将」トランプは落第? 安倍外交の得点は? プーチン、文在寅、ボリス・ジョンソン、習近平は?――世界の首脳を査定し、その能力と資質から国際情勢を読み解く特集です。


中国の国連大使は先週、交渉が行き詰まり、緊張が高まっているのは、非核化に向けて「前向きな取り組み」をしている北朝鮮の動きに応えられていないことが大きいと語った。

ウラジオストックにある極東連邦大学のアルティオム・ルーキン教授は「ロシアと中国の安保理提案は、北朝鮮と足並みを合わせている可能性がある。北朝鮮がこれまでに行ってきた譲歩の見返り要求を映したものだからだ」と指摘。「行動をエスカレートさせるぞ、という北朝鮮の最近の脅しを中ロの外交攻勢が支える格好だ」とした。

ルーキン教授は、中ロが米国の北朝鮮戦略を効果的に弱めていると分析。「北朝鮮は超大国間の対立に乗じるという、比類ない能力を再びいかんなく発揮している」と述べた。

中国外務省の耿爽報道官は17日、安保理が今回の決議案を巡って合意形成することを望むと述べ、米朝に対話の継続を求めた。

米国の同盟国であり、交渉の一環として制裁の一部緩和に前向きな韓国は17日、緩和は安保理諸国の意見が一致することによってのみ可能になるとして、交渉再開に向けた外交努力を呼び掛けた。

アナリストからは、中ロが朝鮮半島の安全保障問題を巡り、連帯強化を見せつけているとの指摘もある。

極東地域を分析するウェブサイト「シノNK」のアンソニー・リンナ氏は、中国が進める北東地域の振興計画と、極東におけるロシアの経済権益双方にとって、北朝鮮の制裁緩和は欠かせないと話す。

「中国政府はこのところ、北朝鮮に制裁緩和は必須との見解を示している」と、リンナ氏は話す。鉄道インフラと海外出稼ぎ労働者を巡る制裁解除の呼び掛けは、ロシアの主要な経済権益にも関連するという。

北朝鮮の金正恩党委員長は対米交渉の期限を年末とし、制裁緩和などで米国が譲歩しなければ「新たな道」を選ばざるを得ないかもしれないと警告している。

中国とロシアは北朝鮮が取り得る次のステップが何かを懸念しているように見えると、専門家は指摘する。制裁緩和の呼び掛けは、北朝鮮が核実験や大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射を再開するのを回避する方策の一環だと、彼らは見ている。

中国とロシアが米国とその同盟国に歩調を合わせ、制裁強化に動いたのは、核実験やミサイル発射がきっかけだった。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

米PCE価格指数、3月前月比+0.3%・前年比+2

ワールド

米中外相会談、ロシア支援に米懸念表明 マイナス要因

ワールド

ベトナム国会議長、「違反行為」で辞任 国家主席解任

ビジネス

ANAHD、今期18%の営業減益予想 売上高は過去
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された米女優、「過激衣装」写真での切り返しに称賛集まる

  • 3

    中国の最新鋭ステルス爆撃機H20は「恐れるに足らず」──米国防総省

  • 4

    今だからこそ観るべき? インバウンドで増えるK-POP…

  • 5

    未婚中高年男性の死亡率は、既婚男性の2.8倍も高い

  • 6

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 7

    「鳥山明ワールド」は永遠に...世界を魅了した漫画家…

  • 8

    アカデミー賞監督の「英語スピーチ格差」を考える

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 1

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士が教えるスナック菓子を控えるよりも美容と健康に大事なこと

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 10

    「すごい胸でごめんなさい」容姿と演技を酷評された…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の瞬間映像をウクライナ軍が公開...ドネツク州で激戦続く

  • 4

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    「おやつの代わりにナッツ」でむしろ太る...医学博士…

  • 7

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこ…

  • 8

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 9

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中