最新記事

宇宙

光がねじまげられる......ブラックホールをビジュアル化した画像が公開

2019年9月30日(月)16時30分
松岡由希子

NASA’s Goddard Space Flight Center/Jeremy Schnittman

<アメリカ航空宇宙局(NASA)は、シミュレーションに基づき、ブラックホールをビジュアル化した画像を公開した......>

ブラックホールとは、極めて高密度で、光さえ脱出できないほどの強い重力を持つ巨大な天体である。国際研究チーム「イベントホライズンテレスポープ(EHT)」は、2019年4月10日、おとめ座にある楕円銀河M87の中心にあるブラックホールを直接撮影することに世界で初めて成功したが、画像は低解像度であり、その全貌はまだ十分に解明されていない。

20190410-78m.jpgEvent Horizon Telescope Collaboration

重力によって光がねじ曲げられた様子

アメリカ航空宇宙局(NASA)は、2019年9月26日、シミュレーションに基づき、ブラックホールをビジュアル化した画像を公開した。中心部の黒い円は「事象の地平面」と呼ばれ、ブラックホールの重力からの脱出速度が光速を超えるために脱出が不可能な境界である。

フランスの天体物理学者ジャン=ピエール・ルミネ博士が1960年代のコンピュータ「IBM7040」を使って1978年にブラックホールをシミュレーションした画像にも、同様の黒い円が中心部に描かれていた。また、「事象の地平面」の周囲で明るく光る輪のような物体は「光子リング」で、重力によって光がねじ曲げられたものである。

luminet.jpgJean-Pierre Luminet

周囲からガスや塵がブラックホールに落ち込む際、これらのガスや塵はまっすぐ落ち込むことなく周りにリングを形成し、「降着円盤」と呼ばれる円盤を形成する。NASAのシミュレーション画像において、ブラックホールの周りを周回しているオレンジ色の物体が「降着円盤」だ。

この画像では、ブラックホールの後ろに回り込むはずの「降着円盤」がブラックホールの上部にあらわれている。これは、「事象の地平面」の外側でさえ重力が非常に大きく、時空が歪み、「降着円盤」の光の経路が曲がるためである。

bh_labeled.jpg

非常に強いドップラー効果を引き起こす唯一の天体

この画像の「降着円盤」では、明るくみえる部分と暗くみえる部分がある。これは「相対論的ビーミング」と呼ばれる現象で、「降着円盤」の回転によるものだ。この動きが光の波長の周波数に変化をもたらす。これがいわゆるドップラー効果である。私たちに向かってくる「降着円盤」は光速に近づくので明るく見える一方、私たちから遠ざかっていく側は、逆の作用により暗く見えるというわけだ。

このような「降着円盤」の視光度の非対称性について、ルミネ博士は「これこそ、ブラックホールの主な特徴であり、『降着円盤』の内部に光速に近い回転速度をもたらし、非常に強いドップラー効果を引き起こす唯一の天体である」と述べている。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

ウクライナ協議の早期進展必要、当事国の立場まだ遠い

ワールド

中国が通商交渉望んでいる、近いうちに協議=米国務長

ビジネス

メルセデス、2027年に米アラバマ工場で新車生産開

ワールド

WHO、成人への肥満症治療薬使用を推奨へ=メモ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 6
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 7
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 8
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 9
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 10
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中