最新記事

韓国

韓国人はなぜデモがそんなに好きなのか

Why Do South Koreans Protest So Much?

2019年8月19日(月)11時55分
ドラナンダ・ロヒモネ(メルボルン大学学生〔アジア研究・哲学専攻〕)、グラント・ワイエス(政治アナリスト)

8月3日にソウルの日本大使館前で行われたデモでは戦時中の強制労働への謝罪を要求 KIM HONG-JI-REUTERS

<大統領退陣要求から「反日」まで、デモが当たり前の日常を生む政府と一般市民の成熟しない関係。デモに揺れ過ぎる韓国の政治的欠陥とは>

韓国の首都ソウルではいつであれ、何らかの抗議行動に遭遇せずに街中を歩くのは無理な相談だ。最近では日本の輸出管理強化への抗議、または朴槿恵(パク・クネ)前大統領の弾劾訴追につながった2016年の退陣要求デモなど、韓国では大規模な抗議運動がたやすく組織され、社会のあらゆる層から広く参加者が集まる。

ソウルの路上に遍在するデモは、韓国の政治文化に特有のある側面を浮き彫りにする。韓国の一般市民と国家の関係を理解する上で不可欠な側面だ。

1948~87年まで独裁政権が長く続いた時代、抗議活動は国家に苦情を申し立てる唯一の手段と受け止められていた。だが自由民主主義国家に転じてからも、理論上は利益団体が政治に及ぼす影響力が拡大したにもかかわらず、制度の枠組みの外での集団行動は民衆にとって自らの関心や懸念を表明する主要な手法であり続けている。

その一因は、独裁政権時代の後遺症が尾を引くなか、国家と民衆の間に系統だった相互作用が存在しないことにある。民主化によって市民は投票権を手にしたものの、政府との適切な仲介役となる国内組織はいまだに不在。そのせいで政策決定プロセスへの市民社会の参加が妨げられている。

だからこそ、デモが一種の疑似的な権限獲得の手段になる。市民は自らに影響力があるとの感覚を手にするが、そこには国家の行動に対する洗練された形の関与が伴わない。抗議活動は特定の問題を明らかにする上で極めて有用だが、それでは政府と共同で政策を策定・立案・施行・監視する能力を、市民社会は得られない。

mag190819koreaprotests-2.jpg

祖国解放を記念する8月15日の「光復節」の示威行動 KIM HONG-JI-REUTERS

韓国以外の自由民主主義国では、強力な協調体制を築く利益団体がこうした役割を担っている。独自の予算や確かな組織的能力を有する団体は、政府と持続的かつ緊密な関係を持つことができる。

一方、韓国ではこのプロセスがそこまで洗練されていない。政策決定に助言を得ようと国会での公聴会や論議に利益団体を招いても、国会内の結束不足と議員間の対立があまりにひどいため、せっかくの意見もかき消されがちになる。悪名高い一例が、2008年に開始された4大河川再生事業だ。是非をめぐる論争が3年以上も続いた揚げ句、監査院が乗り出す展開になった。

行政の枠組みの脆弱性は、常に流動的な政党政治の在り方に反映されている。政党の分裂や合併、党名変更はいわば韓国式民主主義の特徴。政党の平均存続期間は5年未満だ。

継続的な不安定性は民衆の間に疑念や無関心、不信感を生む。同時に政党自体が、民衆の利害関係をしっかりと反映した綱領を策定・提言できない無能な存在と化してしまう。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

世界の石油市場、26年は大幅な供給過剰に IEA予

ワールド

米中間選挙、民主党員の方が投票に意欲的=ロイター/

ビジネス

ユーロ圏9月の鉱工業生産、予想下回る伸び 独伊は堅

ビジネス

ECB、地政学リスク過小評価に警鐘 銀行規制緩和に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編をディズニーが中止に、5000人超の「怒りの署名活動」に発展
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    ついに開館した「大エジプト博物館」の展示内容とは…
  • 8
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 9
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 10
    「ゴミみたいな感触...」タイタニック博物館で「ある…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 3
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 8
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 9
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 10
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中