最新記事

沖縄ラプソディ/Okinawan Rhapsody

辺野古「反対多数」 沖縄ルポで見えた県民分断のまぼろし

OKINAWAN RHAPSODY

2019年2月25日(月)11時20分
石戸 諭(ノンフィクションライター)

magSR190225okinawa-map.png

本誌22ページより

さすがに批判に耐えられないと判断したのか、沖縄では野党の自民・公明で協議が始まる。沖縄の県政与党も巻き込み、2択でダメならばと、妥協の産物としか言いようがない「どちらでもない」を加えた3択案が県議会で賛成多数で可決され全県実施が決まった――。ちなみに自民は3択案ですらまとまることができず、内部分裂した。

私が沖縄に降り立ったのはそんなドタバタが続いた時期だった。これまで沖縄について熱心に報じたことはない。編集者からの依頼でたまたま昨年9月に沖縄県知事選を取材し、何本かルポルタージュを書いたくらいである。今も強い関心があるかと問われれば答えに窮してしまうのだが、どこかで引っ掛かりを覚えたテーマであった。

私の「引っ掛かり」をもう少し詳しく書くとこうなる。

よく沖縄に精通した論客、政治家は「複雑」という言葉でこの島の現実を表現する。なるほど確かに複雑だ。

一例を挙げよう。前知事の翁長雄志は、かつて自民党沖縄県連の雄として知られた政治家だった。「基地反対派」のドンとも言える大田昌秀知事(当時)を舌鋒鋭く批判した県議会での追及は、今でも語り草になっている。

その翁長が普天間飛行場の辺野古移設反対、「イデオロギーよりアイデンティティー」を訴えて、基地反対派も巻き込み14年の県知事選で圧勝する。翁長は米軍基地そのものに反対はしなかったが、「これ以上の基地負担=辺野古新基地建設」にはかつてないほどの抵抗を見せた。

ここで問うてみたいのは「複雑」とは何を意味するのか、である。「複雑」という言葉は便利なもので、前述のように翁長の経歴をたどりながら「民意は複雑だ」と言えば、それだけで何か語った気にはなれる。だが、それだけでしかない。

私が知りたいのは表層的な政争以上のさらに奥にある現実、「複雑」の心底に何があるのかだ――。

那覇空港に到着してから真っ先に宮里を訪ねたのは、彼女が『宝島』の公式サイトに寄せた推薦コメントを読んだからだ。それは気になる言葉だった。「私の年代では記録といえる戦後復帰時代の話ですが、肌がちりつきました。読み進めるにつれ鳥肌が止まらなくなるのは、私が沖縄人だからでしょうか?」

「沖縄人」を「日本人」に置き換えると、インターネット上でよく見掛けるナショナリストの言葉に接近する。だが、彼女のコメントはそんな単純なものではないように思えた。一体何が違うのだろう。

宮里はこの小説を読み昨年2月6日、85歳で亡くなった祖母・与儀ツル子を思い出したのだと語った。県中部・うるま市で生まれたおばあちゃんは、と彼女は語りだす。戦前、一家で沖縄からサイパンに移住したが、戦争が激化するなか、家族は次々と亡くなった。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

トランプ氏「非常に生産的」、合意には至らず プーチ

ワールド

「次はモスクワで」とプーチン氏、会談後にトランプ氏

ワールド

プーチン大統領、ウクライナ紛争終結に「真摯な関心」

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、9月利下げ観測維持 米ロ首
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 6
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 10
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 8
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中