最新記事

宇宙企業

宇宙から降ってくる600万ドルを捕まえる! スペースXの次の一手

2018年5月29日(火)17時50分
鳥嶋真也

落ちてくるフェアリングを網でキャッチ

しかし、フェアリングは板のようなものなので、第1段のようにエンジンを噴射して降りるようなことはできない。かといってエンジンをつけると重くなり、ロケットの打ち上げ能力が落ちてしまう。

そこでスペースXは、フェアリングにパラグライダーなどに使われる「パラフォイル」を搭載。パラフォイルは空気で膨らむ翼のような装置で、行き先を操縦することができるため、ある程度狙ったところに降りることができる。

もちろん、そのままでは海に着水し、水に浸かってしまい、再使用がしにくくなる。そこでスペースXは、パラフォイルで降下してくるフェアリングを船で追いかけ、その甲板に張った網でキャッチするという、かなり突飛なアイディアを試している。

回収実験は今年2月から始まり、これまでに3回行われている。しかし、パラフォイルが小さく降下スピードが速すぎたり、船で追いかけきれずにキャッチできなかったりと、まだ成功した試しはない。だが、同社はめげずに試行錯誤を重ねており、マスク氏は「夏までには成功できるだろう」と話す。

フェアリングを回収するイメージ

ロケットすべての"完全再使用"も視野

さらにスペースXは、ファルコン9の第2段の再使用も検討している。第2段を回収して再使用するのは、第1段やフェアリングよりもさらに難しい。しかし、もし実現すれば、第1段とフェアリングと合わせて、ロケットの部品すべてを完全再使用することができるようになる。

マスク氏はこれにより、ファルコン9の打ち上げコストを500万ドルから600万ドルにまで引き下げたいとしている。現在の打ち上げコストは約5000万ドルとされるため、およそ10分の1。実現すれば、宇宙輸送に革命が起こり、宇宙の利活用はいまより大きく進み、宇宙旅行さえも現実味を帯びてくる。

もちろん、フェアリングも第2段も捕まえられない現状では、捕らぬ狸の皮算用である。

しかし、そこに大きな可能性があることは間違いない。なにより、不可能と思える技術の開発に果敢に挑戦し続ける姿勢こそ、スペースXの真骨頂であり、同社が世界一の宇宙企業にまで成長した原動力であることを忘れてはならない。

space005.jpg

回収に失敗し、海上に落ちてしまったフェアリング。試行錯誤が続いている (C) Elon Musk/SpaceX

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ムーディーズ、フランスの見通し「ネガティブ」に修正

ワールド

米国、コロンビア大統領に制裁 麻薬対策せずと非難

ワールド

再送-タイのシリキット王太后が93歳で死去、王室に

ワールド

再送-トランプ米大統領、日韓などアジア歴訪 中国と
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...装いの「ある点」めぐってネット騒然
  • 2
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した国は?
  • 3
    「宇宙人の乗り物」が太陽系内に...? Xデーは10月29日、ハーバード大教授「休暇はXデーの前に」
  • 4
    シンガポール、南シナ海の防衛強化へ自国建造の多任…
  • 5
    為替は先が読みにくい?「ドル以外」に目を向けると…
  • 6
    「信じられない...」レストランで泣いている女性の元…
  • 7
    ハーバードで白熱する楽天の社内公用語英語化をめぐ…
  • 8
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 9
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 10
    【ムカつく、落ち込む】感情に振り回されず、気楽に…
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 4
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 5
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 6
    超大物俳優、地下鉄移動も「完璧な溶け込み具合」...…
  • 7
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 8
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 9
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 10
    「ママ、ママ...」泣き叫ぶ子供たち、ウクライナの幼…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中