最新記事

タイ王室

ドイツでタイ国王がBB弾で「狙撃」、これがタイなら......

2017年6月22日(木)18時50分
大塚智彦(ジャーナリスト)

しかし、タイは国王や王室に関して厳しい報道規制があり、国王や王妃、王位継承者など一族のプライバシーや名誉に対する「不敬罪」(刑法112条)が現在も厳然として存在する。2014年5月のクーデータで軍政が政権を担って以来これまでに不敬罪での逮捕者は100人以上に上っている。最も最近の事例としては、6月9日にフェイスブックで王室に批判的な書き込みを10件行った不敬罪で、33歳のタイ人男性が禁固35年の実刑判決を受けている。

これは王室批判とともに政府批判も封じ込めたいとする軍政がネット上での監視も強化していることの反映で、最近ではフェイスブックでの不敬な書き込みやスキャンダルに「いいね」を押しただけでも罪に問われかねない事態となっているという。

未確認情報あふれるネット

こうした国内事情のためタイ国内では今回の「国王狙撃」のニュースはほとんど報じられていない(英BBC放送が初めてタイ語サイトでニュースを報じた)。しかし多くの国民はインターネットなどの各種サイトで「事件」を知り、口をつぐんでいるという。

今回の「狙撃事件」にはネット社会を反映して尾ひれがついており、事件当日ミュンヘンでは全裸で自転車に乗る「ヌード・サイクリング」のイベントが開催されていたという情報がある。そしてワチラロンコン国王自身もこのイベントに全裸で参加し、イベント終了後にも取り巻きを引き連れて「夜に全裸でサイクリングしていた」ところを狙撃されたというのだ。もっともいずれも「あくまで未確認情報である」との注釈付きであるが。

タイ軍政や王室からはこの件に関してはこれまでのところ一切のコメントも反応も出されていない。そして事件の内容が内容だけに今後もタイ国内では、多くの国民が知りながら「存在しなかった出来事」となることは間違いない。

ワチラロンコン国王の即位式はプミポン前国王の喪が明ける今年10月26日に執り行われる予定だ。

otsuka-profile.jpg[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など



【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>


今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米CIA、中国高官に機密情報の提供呼びかける動画公

ビジネス

米バークシャーによる株買い増し、「戦略に信任得てい

ビジネス

スイス銀行資本規制、国内銀に不利とは言えずとバーゼ

ワールド

トランプ氏、公共放送・ラジオ資金削減へ大統領令 偏
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単…
  • 5
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 6
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 7
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中