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出会い系サイトから危険ドラッグまで、グレーなビジネスで荒稼ぎする人たち

2016年7月25日(月)17時08分
印南敦史(作家、書評家)

<裏情報提供業者、出会い系サイト運営者、デリヘル経営者、危険ドラッグの仕切り屋、六本木・関東連合の育ての親......「ブラック」ではなく法律スレスレの領域で活動する「企業家」9人の、意外な素顔と実態に迫った『闇経済の怪物たち――グレービジネスでボロ儲けする人々』>

闇経済の怪物たち――グレービジネスでボロ儲けする人々』(溝口敦著、光文社新書)は、インターネットを通じての裏情報提供業者、出会い系サイト運営者、デリヘル経営者、危険ドラッグの仕切り屋、六本木・関東連合の育ての親など、ふだん表に出てくることのない9人の実態を、綿密な取材によって浮き彫りにした書籍だ。

 まず注目すべきは、「グレービジネスでボロ儲けする人々」というサブタイトルである。つまり彼らがやっていることはすべて「ブラック」ではなく、法律スレスレの「グレー」な領域であり、その点が最大のポイントなのだ。本当にブラックな人たちの話なら過去にもあっただろうが、必ずしもそうではないからこそ、そこに本書のオリジナリティが生まれている。


 世の中にはグレーなビジネスが存在する。完全に違法の商売とはいえないが、胸を張って公明正大な仕事かといえば、そうではなく、人に話すときには営む商売を隠すか、ぼかすかすることになる。程度の多少はあれ、後ろ暗さが拭えない仕事である。(3ページ「まえがき」より)

 グレービジネスについてのこの説明自体が非常に曖昧だが、つまりはこうとしか表現できないからこそグレーなのだ。「闇経済」という言葉を目にするとそれだけで、我々一般人は映画に出てくるようなわかりやすい悪党をイメージしがちだ。しかし、彼らはそうではないのである。その証拠に、彼らの容姿に関する描写もこのとおり。


「仕事好きで、遊び好きでもありそうな、ごく普通の40代」(20ページより)
「まだ40代半ばで少壮実業家然としている」(42ページより)
「ネクタイ、スーツ姿で、一見大企業に勤めるサラリーマンのように見える」(65ページより)
「中肉中背で応対が柔らかく、腕力系の雰囲気はみじんもない。酒を飲まず、タバコもアレルギーが出て吸えない」(89ページより)
「痩せ型で中背、どこにでもいそうな若者で、まずイカサマ・ディーラーの第一人者とは想像もつかない」(114ページより)

 このように、ほとんどが"悪人"のイメージからはほど遠い。そのぶん、強いリアリティを感じさせるというわけだ。

 とはいえ、彼らは何者なのか? 「"出会い系サイトの帝王"が、オモテの顔は都心に社員100人以上のオフィスを構える広告代理店の経営者」だなどという記述を目にしてしまうと、余計に話がややこしくなってしまう。

【参考記事】震災1週間で営業再開、東北の風俗嬢たちの物語

 ただ重要なのは、そういった感じ方が、こちらの勝手なイメージによるものでしかないということである。"悪い人"は目つきが鋭く、彫り物があって、キレやすく、ひょっとすると飛び道具すら持っているかもしれない――。そんな無責任なイメージと現実は、たぶん大きく乖離している。そこにこそ真実があるのだ、きっと。

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