最新記事

リーダーシップ

HBS教授が教える、「使える部下」の育て方(後編)

"正しい疑問"を活用すれば「優秀な部下がいない」と言い訳することもなくなる

2015年8月11日(火)16時30分

PathDoc/Shutterstock

 ゴールドマン・サックスに22年間勤務し、副会長まで務め上げた後、ハーバード・ビジネススクール(HBS)教授に。そんな輝かしいキャリアを持つロバート・スティーヴン・カプランによれば、「卓越したリーダーシップを発揮するのに、すべての問いの答えを知っている必要はない」。

 うまくいくリーダーと、うまくいかないリーダーの違いは何か。どんなリーダーでも例外なく、自信とやる気をなくす時期を経験する。違いが表れるのは、そうしたときに"正しい疑問"を持てるか否かだと、カプランは言う。

 カプランの新刊『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術 成果を上げるリーダーの習慣』(福井久美子訳、CCCメディアハウス)は、ビジョンの描き方から、フィードバックの活用法、迷走した組織の立て直し方まで、大小を問わず組織を率いる人に"正しい疑問"という武器を授けてくれる1冊。

 ここでは、「第4章 部下を育てる技術――後継者を育成する」から一部を抜粋し、前後半に分けて掲載する。


『ハーバードの"正しい疑問"を持つ技術
 ――成果を上げるリーダーの習慣』

 ロバート・スティーヴン・カプラン 著
 福井久美子 訳
 CCCメディアハウス
amazon-button.png

※HBS教授が教える、「使える部下」の育て方:前編はこちら

◇ ◇ ◇

 優秀な人材の不足に悩んでいた、ある大手企業の部長の話を紹介しましょう。彼女は、直属の部下たちが能力不足で重要な仕事を任せられないために、時間を最大限に有効活用できずに悩んでいました。さらに彼女は、社内に優秀な人材がいないせいで、新商品の開発やマーケティング活動に支障が生じていると考えていました。彼女に「補欠リスト」を見せてもらったところ、自分の部下全員と、さらに彼らの部下の名前が、詳細な説明つきで列挙されていました。私はその名前を確認しながら「何人かの管理職にもっと多くの権限を与えられませんか?」と訊ねました。彼女は彼らをほめながらも、誰に対してもあいまいな態度を取りました。

 こうしたやり取りをしていた三か月間で、候補に挙がっていた二人の部下が会社を辞めました。二人とも、ライバル企業からもっと責任の重いポストを提示されたのです。どちらの場合も、部長はCEOの助けを借りて彼らを引き止めようとしました。もっとリーダーシップを発揮できる仕事を任せるからと説得しようとしたのです。しかし、残念ながらどちらの部下も彼女を信じませんでした。彼らは入社以来一度も、重責を担うための教育もコーチングも受けたことがなく、一一時間かけて説得されても不信感をぬぐえずにいました。結局、二人とも会社を去っていきました。

 二人が辞職した後、部長はうちひしがれ、CEOも「きみには、優秀な人材を採用する力量も、会社に定着させる力量も足りないのかもしれないね」と彼女を不安視する発言を口にしました。要するに、すでに難しかった状況がさらに難しくなったのです。そのショックから、この部長はアドバイスを求め、積極的に内省し分析しました。私たちがこの出来事について話し合っていると、彼女は、二人が辞める前から、彼らばかりではなく誰も有望なリーダーとして見ていなかったことに気づきました。その結果、彼らの権限を拡大することも、コーチングの時間を増やすこともしませんでした。毎日いろいろなことが起きますし、ビジネスの景況をチェックするのにも忙しくて、彼らをもっと良く知ろうとも、彼らの能力をきちんと評価しようともしませんでした。今や彼女は、この二人の能力を過小評価していたことに気づきました――さらには、部内の他の社員の能力も過小評価していたであろうことも。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ビジネス

ロ、エクソンの「サハリン1」権益売却期限を1年延長

ビジネス

NY外為市場=円が小幅上昇、介入に警戒感

ビジネス

米国株式市場=ダウ・S&P最高値、ナイキやマイクロ

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 2
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    「時代劇を頼む」と言われた...岡田准一が語る、侍た…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中