コラム

どうにも不自然な自民党の政治資金記載漏れ問題

2023年11月22日(水)15時45分

そうなると、もう1つ別のストーリーが考えられます。それは党外からの力学です。総選挙を意識して、自民党全体のイメージを下げたいという動機は野党各党には濃厚にあります。その中でも、保守系の野党は、自民党との間では秘書同士の人事交流もあり、ネットワークもあります。だとしたら、保守系野党の政治家秘書などが、個人的な人脈から「政治資金の記載漏れ」というネタを握って、特捜部に告発をしたことは考えられます。

ですが、これもまたやや不自然です。政治資金の記載漏れというのは、違法行為ですが、だからといって、選挙を意識してそこまで露骨な暴露をやるというのは、過去に聞いた事はありません。特捜部にしても、余りに露骨な格好で野党を利するような捜査を行えば、公正中立であるべき検察としての汚点になります。


そう考えると、もっと別の背景の想像が必要でしょう。例えばですが、このままでは自民党が総選挙で大敗し、自分が秘書をしている政治家の議席も危うくなるという危機感から、一部の自民党の秘書などが動いているという可能性です。同業のネットワークを使って情報を集め、これを告発したとして、仮にその「大義」として政界再編という目的があれば、話は変わって来ます。

単に野党による政争に加担するのではなく、政界再編という大義がウラにあるのであれば、協力者も増えるでしょうし、検察も動きやすくなるのかもしれません。特捜部のOBの中には、過去にも政界再編の仕掛け人として動いた人物もあり、こうした可能性は全く否定はできないと思います。

いずれにしても、今回の告発劇には、何らかの政治的意図がある可能性は否定できないし、もしかしたら政界再編の予兆かもしれません。政界再編ということでは、大阪万博で行き詰まった維新、コロナ禍で都財政を悪化させた都民ファーストなど、保守系の野党には「看板を書き換えたい」動機があることも指摘できます。内閣支持率が極端に低迷していることと併せて、何かが起きる予兆かもしれません。

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プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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