コラム

ロシア寄り発言で窮地に立つトランプ、秋の中間選挙までに態勢を立て直せるか

2018年07月19日(木)18時10分

「言い間違えた」というあり得ない言い訳で発言を撤回したトランプ Leah Millis-REUTERS

<ヘルシンキでの会見で、自国の情報機関への不信を述べたトランプ。帰国後に発言を撤回したが、この言動には保守系からの反発も大きく、秋の中間選挙までに状況を立て直せるかどうかが今後の焦点に>

7月16日にフィンランドのヘルシンキで行われた米ロ首脳会談の後の記者会見で、トランプ大統領は「自分の国の諜報機関よりもロシアのプーチン大統領を信じる」と受け取られかねない発言を繰り返しました。これに対して、日頃は大統領の支持に回っているFOXニュースもかなり批判的なスタンスを取っています。

例えばキャスターのクリス・ワレスは、プーチン大統領に独占インタビューを行って、再三にわたって「2016年大統領選への介入」を追及していました。他のキャスターも多くが「大統領の言動には疑問」という姿勢を取っていました。

保守系のFOXですらそのような姿勢だったわけですが、そもそも大統領に対して批判的なCNNや三大ネットワークなどは「ここぞ」とばかりに攻勢に出ています。例えば、NBCは元CIA長官のジョン・ブレナンを17日にスタジオに呼んで「場合によっては辞任を迫るレベルの問題」という厳しいコメントを引き出していました。

こうした状況を受けて、トランプ大統領は18日には「自分はプーチン大統領との会談後の会見では言い間違いをした」と述べています。つまり「ノー」と言ったのは「イエス」というつもりだったのを間違えたとか、かなり苦しい言い訳ではあるのですが、ダメージコントロールのために発言を正反対の方向に訂正していました。

ということで、政権にとっては危機に近い状況になっているのですが、いつものように「コア支持者」の大統領への忠誠は変わらないようです。NBCは18日の朝の番組で、ミシガン州の「トランプ支持者」たちにインタビューしており、そこでは登場した支持者たちが「大統領は、勤労者階級(ワーキング・クラス)の代表。自分たちはあくまで信じている」と口々に述べていました。

また、FOXニュースの中で、これまで大統領に対して極めて忠実な姿勢を取ってきた、キャスターのショーン・ハニティだけは、依然として大統領支持で突出しています。

こうした雰囲気を裏付けるものとしては、17日に発表されたロイター通信社とイプソス(調査会社)の合同調査が参考になります。大統領の対ロシア外交について政党別に見てゆくと、共和党支持者の間では、依然として「71%」が「大統領のロシア外交を支持」となっています。一方で、民主党支持者の間では「14%」ですから、政治的な分断は依然として根深いものがあります。

但し、この調査の全体数字としては、「不適切」が55%に対して「適切」が37%、という結果が出ていますから、やはり危機に近い状況というのは間違いないでしょう。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米・イスラエル、ガザ巡る国連職員の中立性に疑義 幹

ビジネス

米アメックスがプラチナカード刷新で3500ドル追加

ビジネス

午前の日経平均は続伸、ハイテク株主導で最高値 一巡

ワールド

ウクライナ、ポーランド軍に対ドローン訓練実施へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の物体」にSNS大爆笑、「深海魚」説に「カニ」説も?
  • 2
    燃え上がる「ロシア最大級の製油所」...ウクライナ軍、夜間に大規模ドローン攻撃 国境から約1300キロ
  • 3
    1年で1000万人が死亡の可能性...迫る「スーパーバグ」感染爆発に対抗できる「100年前に忘れられた」治療法とは?
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    「日本を見習え!」米セブンイレブンが刷新を発表、…
  • 6
    アジア作品に日本人はいない? 伊坂幸太郎原作『ブ…
  • 7
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 8
    「ゾンビに襲われてるのかと...」荒野で車が立ち往生…
  • 9
    中国山東省の住民が、「軍のミサイルが謎の物体を撃…
  • 10
    中国経済をむしばむ「内巻」現象とは?
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 3
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 4
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 5
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 6
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 7
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 8
    「何だこれは...」クルーズ船の客室に出現した「謎の…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 5
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 6
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story