コラム

「ロシア通のキングメーカー」登場でトルコは欧米からさらに離れる

2023年05月25日(木)13時50分
オアン

エルドアン支持を表明したオアン(5月22日) Cagla Gurdogan-REUTERS

<第一回投票で3位だったオアンが決選投票でエルドアンを支持することを表明した。過去にはエルドアンを批判したこともあり、思想性は必ずしも一致するわけではない。トルコの今後を左右するオアンとは何者なのか>


・5月14日のトルコ大統領選挙で第3位だったオアン候補は28日の決選投票で現職エルドアンを支持すると表明した。

・オアンは欧米メディアで「極右」と呼ばれるが、その一方ではトルコ屈指の「ロシア通」でもある。

・そのため、オアンの支持でエルドアン政権が続投する場合、トルコはこれまで以上に少数民族などに厳格な対応をとるとともに、よりロシア寄りの外交に向かう公算が高い。

5月28日のトルコ大統領選挙決選投票の行方を左右する「キングメーカー」がエルドアンを選んだことで、今後トルコが今以上にロシア寄りになる可能性が高まった。

キングメーカーの決断

トルコでは5月14日に大統領選挙第一回投票が行われたが、ここで3位になったオアン候補が5月22日、決選投票で現職エルドアン大統領を支持すると表明した。

この表明は5月28日に予定されている決選投票に重大な意味をもつ。

14日の大統領選挙第一回投票では、現職エルドアンが49.52%を獲得して1位通過し、野党連合のクルチダルオル候補は44.88%、そしてオアンは5.17%の票を、それぞれ得た。

トルコ憲法によると、第一回投票で過半数を獲得する候補がいなかった場合、上位2名による決選投票になる。そのため、3位になったオアンとその支持者の動向が決選投票の趨勢を決するとみられていた。

いわば「キングメーカー」になったオアンは結局エルドアンについたわけだが、その先行きには不透明さも残る。第一回投票でオアンは極小の5政党の連合体(後述)の統一候補として立候補していたが、そのなかには今回のオアンの決定を支持しない政党もあるからだ。

とはいえ、オアンの協力は内外で大きく報じられており、「エルドアン有利」のイメージが強まれば、「勝ち馬」につこうとする有権者の心理、いわゆるバンドワゴン効果も大きくなるとみられる。

オアンとは何者か

今回の決選投票はトルコの内政だけでなく、ウクライナ戦争をはじめ国際情勢にも影響を及ぼすと想定される。

エルドアンはこれまで欧米と中ロの間で独自の立場を確立してきた。これに対して、第一回投票で第2位のクルチダルオルは親欧米路線を全面に掲げている。

仮に決選投票でエルドアンが勝てば、その政権運営は基本的にこれまでの路線を維持しながらも、「キングメーカー」オアンの考え方を反映したものになるだろう。

プロフィール

六辻彰二

筆者は、国際政治学者。博士(国際関係)。1972年大阪府出身。アフリカを中心にグローバルな政治現象を幅広く研究。横浜市立大学、明治学院大学、拓殖大学、日本大学などで教鞭をとる。著書に『イスラム 敵の論理 味方の理由』(さくら舎)、『世界の独裁者 現代最凶の20人』(幻冬舎)、『21世紀の中東・アフリカ世界』(芦書房)、共著に『グローバリゼーションの危機管理論』(芦書房)、『地球型社会の危機』(芦書房)、『国家のゆくえ』(芦書房)など。新著『日本の「水」が危ない』も近日発売

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 3
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story