コラム

カタルーニャ人が「国歌」で100年以上前から歌っていたこと

2017年11月16日(木)18時58分

10月21日、「アルツ・サガドールツ」を歌うカルラス・プッチダモンと州議会議員たち。独立宣言採択後に議員8人(そのうち7人が前列と2列目に)が投獄され、プッチダモン元州首相(前列左から4人目)はベルギーで事実上亡命中 Photograph by Toru Morimoto

<17世紀、カタルーニャの農民たちがスペインの統治と搾取に反発して蜂起した。カタルーニャにはスペインにつながれた「鎖を断ち切る」という「国歌」がある>

カタルーニャには「国歌」がある。独立運動のデモでは必ず群衆の中から沸き上がり、10月27日に州議会が独立宣言を採択した直後には、独立派議員たちが高々と歌い上げた「アルツ・サガドールツ(収穫人たち)」だ。

カタルーニャは、10世紀には独立君主国となっており、13世紀には他のヨーロッパ諸国に先駆けて議会制度を敷き独自の憲法を維持していた。しかし、15世紀からはスペイン勢力に飲み込まれ、支配されていった。

1640年、カタルーニャを搾取するスペイン王国と、駐屯する横暴な軍への不満が爆発し、農民らが収穫に使う鎌を持って反乱を起こす。この農民蜂起「収穫人戦争」を題材として1892年に作曲されたのが「アルツ・サガドールツ」で、それから約100年後、州議会によってカタルーニャの「国歌」に認定された。


カタルーニャは勝利する
再び裕福で豊かになる
追い返せ
うぬぼれた傲慢な人たちを
鎌を強く振れ
鎌を強く振れ、この土地を守る者たちよ
鎌を強く振れ

今がその時だ、収穫人たちよ
今がその時だ、警戒しろ
次の6月が来るときまで
我々の道具を研いでおこう 鎌を強く振れ
鎌を強く振れ、この土地を守る者たちよ
鎌を強く振れ

敵は震え上がるだろう
私たちのシンボルを見たとき
黄金色の穂を刈るように
時が来れば我々は鎖を断ち切る
鎌を強く振れ
鎌を強く振れ、この土地を守る者たちよ
鎌を強く振れ

17世紀の「収穫人戦争」と21世紀の独立運動の図式は、全く変わっていない。驚くことに、カタルーニャ人たちのスペインに対する見方も、全く変わっていない。裕福な土地カタルーニャを取り戻し、傲慢なスペインの統治から脱却しようという歌の歌詞そのままだ。

今回の発端も、中央政府が定める不公平な税制に不満を募らせ、自分たちの豊かなカタルーニャを奪還したいという願いと、幾度も求めてきたカタルーニャの自治拡大を頭ごなしに否定するスペインという統治者への反発だった。

約4世紀を経て、再びカタルーニャ人の不満が沸点に達した。17世紀と21世紀の唯一の違いは、鎌の代わりに投票用紙を手に立ち上がったことだ。

しかし、独立を問う住民投票を憲法違反とするスペイン政府は、投票日当日(10月1日)には治安部隊を投入し、投票所に並ぶ無抵抗の市民に実力行使で投票阻止を試みる。結果、700人以上の市民が負傷。10月16日には、独立賛成派の平和的市民運動のリーダー2人を保釈金なしで投獄した。

独立宣言採択後には、州の自治権を剥奪し、民主的に選出されたカタルーニャ州政府を解体。副首相を含む8人の議員を、通常は非暴力では適応できない反逆罪(最高刑期30年)で保釈金なしで投獄した。元州首相カルラス・プッチダモンら5人の議員は、ベルギーのブリュッセルに事実上亡命中だ。

カタルーニャ州政府が解体された後も、州都バルセロナ市は「元政府」が唯一の正式な政府であると決議し、自治剥奪に抵抗を続ける。

11月11日の土曜日には、カタルーニャの政治犯の釈放を求める約150万人がバルセロナに集結し、群衆が歌う「アルツ・サガドールツ」がバルセロナの暮れ行く街の中に響いた。

【お知らせ】ニューズウィーク日本版メルマガリニューアル!
 ご登録(無料)はこちらから=>>

プロフィール

森本 徹

米ミズーリ大学ジャーナリズムスクール在学中にケニアの日刊紙で写真家としてのキャリアを開始する。卒業後に西アフリカ、2004年にはバルセロナへ拠点を移し、国と民族のアイデンティティーをテーマに、フリーランスとして欧米や日本の媒体で活躍中。2011年に写真集『JAPAN/日本』を出版 。アカシギャラリー(フォトギャラリー&レストラン)を経営、Akashi Photos共同創設者。
ウェブサイト:http://www.torumorimoto.com/

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

良品計画、8月31日の株主に1対2の株式分割

ビジネス

日経平均は小幅続落、ファーストリテが320円押し下

ビジネス

英GDP、5月は前月比-0.1% 予想外に2カ月連

ビジネス

良品計画、25年8月期の営業益予想を700億円へ上
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に...「曾祖母エリザベス女王の生き写し」
  • 3
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 4
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 5
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 8
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 9
    ハメネイの側近がトランプ「暗殺」の脅迫?「別荘で…
  • 10
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story