コラム

なぜ70年代の中東戦争は、あれほど世界経済を「崩壊」させた? 今回も同じ道をたどるのか?

2023年11月03日(金)09時52分
ハマスとの衝突で緊張が高まるイスラエル

LISI NIESNER–REUTERS

<今回のイスラエルとハマスの衝突を受け、オイルショックのきっかけとなった73年の中東戦争との類似性を指摘する声は多いが...>

パレスチナを実効支配するイスラム組織ハマスがイスラエルを襲撃したことから、中東戦争のリスクが高まっている。1973年には第4次中東戦争が発生。それに伴ってオイルショックが起き、世界経済は大混乱に陥った。当時との類似性を指摘する声は多く、市場関係者は緊張の度合いを高めているが、一方で当時とは状況が異なる面も多い。

73年10月、サウジアラビアなどOPEC加盟6カ国は、アラブを支援するため1バレル=3.01ドルだった原油公示価格を一気に5.11ドルに引き上げ、翌年1月には11.65ドルまで引き上げた。これをきっかけに1次産品のほぼ全てが値上がりし、日本を含む世界各国はインフレに見舞われた。

アメリカは深刻なスタグフレーションとなり、日本は高度成長が終わりを告げ、低成長モードにシフトせざるを得なかった。

ロシアによるウクライナ侵攻をきっかけに、サウジアラビアが原油価格の引き上げを画策するなか、ハマスとイスラエルの衝突が発生したことから、同じ展開を予想する市場関係者は少なくない。確かにイスラエルのガザ地区への侵攻が本格化した場合、原油価格が跳ね上がる可能性はそれなりに高いかもしれない。

だが当時と今とでは決定的に違う点が2つある。1つはドルが以前と比較して圧倒的に強く、過剰なドル安とそれに伴うインフレは発生しにくいという点である。

オイルショックが発生する2年ほど前、アメリカは金とドルの兌換(だかん)停止(いわゆるニクソンショック)を実施しており、ドルの価値は下がっていた。オイルショックは、ドル下落を懸念した産油国が、自らの資産価値を維持するため原油価格を引き上げたという側面があり、必ずしもアラブに対する支援だけが価格上昇の原因ではない。

つまりオイルショックは、激しいドル安とセットになったことで世界経済に大きな混乱をもたらしたといえる。

今回は70年代当時より影響は小さい?

だが今は相対的にドルの価値が高く、中東情勢が悪化すると、むしろドルが買われる可能性も十分にある。そうなると仮に原油価格が上昇し、世界的にインフレが進んだとしても、その影響は以前ほど大きくはならないだろう。

以前とのもう1つの違いは、アメリカの国際的プレゼンスが大幅に低下しており、同国がどこまでイスラエルを本格支援できるか不透明という点である。当時のイスラエルはアメリカの軍事力を背景にアラブ諸国全てを敵に回しても、戦争を継続できる体制が整っていた。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

中国製造業PMI、12月は9カ月ぶり節目回復 非製

ワールド

台湾は警戒態勢維持、中国船は撤収 前日まで大規模演

ワールド

ペルーで列車が正面衝突、マチュピチュ近く 運転手死

ビジネス

中国製造業PMI、12月は50.1に上昇 内需改善
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 5
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 6
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 7
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 8
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story