コラム

時代遅れの日本の「カイシャ」は、新型コロナで生まれ変われるか

2020年05月27日(水)17時44分

長時間の深夜残業など必ずしも合理的でない慣習の根本にあるものとは WNMKM/ISTOCK

<昭和の成功体験から抜け出せず「ゲマインシャフト(共同体)」であり続ける日本企業。コロナショックで変化の兆しも見られるが......>

新型コロナウイルスの感染拡大は、昭和的なスタイルにどっぷりとつかっていた日本の企業社会にも変化をもたらそうとしている。

日本は明治以降、欧米から近代制度を輸入し、戦後は民主憲法の導入によって表面的には先進各国とほぼ同一の仕組みを整えた。だが日本の企業社会には依然として前近代的な要素が残っており、社会学でいうところのゲマインシャフト(共同体組織)に近い。

共同体というのは、その構成員にとって所与のものであり、組織を自らの意思で選択したり、組織との関係を主体的に構築することはできない。日本の会社は終身雇用が前提であり、ひとたび入社すれば半永久的にその構成員となる。個性を発揮することは認められず、社風になじむことが事実上、強要される。

日本の「カイシャ」においては、経済的利益と幸福感、暴力的な抑圧が混然一体となっており、生活費を稼ぐ場所であると同時に、自分の居場所であり、そして苦役を強いられる場所でもあった。全員の顔が見える形で長時間残業するという慣行や、年功序列の賃金体系、全人格的に上司が偉いといった風潮などは全てゲマインシャフト的な部分に起因している。

一方、反対の概念であるゲゼルシャフトとは明確な目的を持って合理的、人為的につくられた組織を指す。この場合、組織は所与のものではなく、契約とルールに従って各自が役割を果たし、見合った報酬を得るのが基本だ。

上司は上司という機能を果たすのみ

人種や性別、年齢は評価に影響せず、仕事に必要な能力を備えているのが基準となる。いわゆるグローバル企業は典型的なゲゼルシャフトだが、上司も全人格的なものではなく、あくまで機能として上司の役割を果たしているにすぎない。

企業とは利益を上げることを目的につくられた合理的組織であり、本来は完璧なゲゼルシャフトであることが望ましい。だが、安価な製品を大量生産する昭和の時代までは、ゲマインシャフト的な社風が業績拡大に寄与したことから、日本企業はなかなかゲゼルシャフトに移行できなかった。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

冷戦時代の余剰プルトニウムを原発燃料に、トランプ米

ワールド

再送-北朝鮮、韓国が軍事境界線付近で警告射撃を行っ

ビジネス

ヤゲオ、芝浦電子へのTOB価格を7130円に再引き

ワールド

インテル、米政府による10%株式取得に合意=トラン
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
特集:台湾有事 そのとき世界は、日本は
2025年8月26日号(8/19発売)

中国の圧力とアメリカの「変心」に危機感。東アジア最大のリスクを考える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋肉は「神経の従者」だった
  • 3
    一体なぜ? 66年前に死んだ「兄の遺体」が南極大陸で見つかった...あるイギリス人がたどった「数奇な運命」
  • 4
    【写真特集】「世界最大の湖」カスピ海が縮んでいく…
  • 5
    『ジョン・ウィック』はただのアクション映画ではな…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 8
    顔面が「異様な突起」に覆われたリス...「触手の生え…
  • 9
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 10
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 1
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 2
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに感染、最悪の場合死亡も
  • 3
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人」だった...母親によるビフォーアフター画像にSNS驚愕
  • 4
    「死ぬほど怖い」「気づかず飛び込んでたら...」家の…
  • 5
    中国で「妊娠ロボット」発売か――妊娠期間も含め「自…
  • 6
    20代で「統合失調症」と診断された女性...「自分は精…
  • 7
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コ…
  • 8
    「このクマ、絶対爆笑してる」水槽の前に立つ女の子…
  • 9
    なぜ筋トレは「自重トレーニング」一択なのか?...筋…
  • 10
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 6
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 7
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 10
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story