コラム

GDPでドイツに抜かれても、そんな数字で騒いでいる場合じゃない

2023年11月03日(金)17時30分

ショルツ政権のドイツも景気低迷に苦しんでいる ANNEGRET HILSEーREUTERS

<現在のドイツは連立政権が仕切る政治面でも、市場重視と乖離した経済面でも行き詰まりが見えている>

IMFによれば、今年日本はドイツに抜かれてGDP世界4位になるという。日本はいよいよ落ち目......という話題で日本はにぎわう。3位でないとクライマックスシリーズに進めないプロ野球でもないのに、自虐もいいところだ。年末までに日銀が利上げでもして円が上がれば、日本はGDP世界3位を確保できる。そんな数字で騒ぐより、家の広さや休暇の長さ、電気自動車の開発でドイツと競いたいものだ。

もともと円安で、ドルベースでの日本のランクが下がるのは、分かっていたこと。皮肉なことに、日本経済の復活を狙ったアベノミクスの置き土産なのだ。「異次元の金融緩和」で金利がゼロ近辺に沈められただけならまだしも、米欧がいち早く低金利から抜け出して利上げに走ったから、円安が加速した。今や日本は「異次元の経済」。円安でエネルギー、食料価格は跳ね上がり、賃上げを上回るインフレ。外国人は「安い日本」に観光で押し寄せる。

一方、輸出企業の円ベースでの利益は跳ね上がるから、政府の法人税歳入は膨れる。輸入インフレで消費税歳入も増え、政府は時ならぬ7兆円もの増収だ。増収なら累積した国債の償還や防衛費に使えばいいのに、与党は(総選挙を意識して)減税で国民に還元すると言う。

日本経済がドイツ経済に負けたと騒いでいる時に、おかしなことに世界は「ドイツが沈んで見えなくなった」と騒いでいる。社会民主党(SPD)のシュレーダー政権が2000年代、保守系と見まがうような市場・競争重視の企業経営改革を行って以来、ドイツ経済は右肩上がりだったが、最近では原発全廃のような非市場的な政策の数々に加えて、中国経済不振、ロシア制裁のブーメランで天然ガス供給の減少と電力価格の上昇、自動車の環境規制強化への乗り遅れなどで青息吐息。昨年第4四半期はマイナス成長に陥って、その後も成長率はゼロ周辺をのたうっている。

お互いの実像を知らない日独

革新、環境派、そして保守と、全く異なる三方を向いた現在の社民党・緑の党・自由民主党の連立政権は、整合性と一貫性を持った政策を打ち出すことが難しく、個々の政治家の識見や力量も落ちている。その間隙に、「ドイツのための選択肢(AfD)」という右派政党が、目新しさも手伝って支持率を上げている。この党はネオナチ勢力も包含しているが、経済的には原発全廃のような過度の理想主義を捨て、市場重視を標榜する。

プロフィール

河東哲夫

(かわとう・あきお)外交アナリスト。
外交官としてロシア公使、ウズベキスタン大使などを歴任。メールマガジン『文明の万華鏡』を主宰。著書に『米・中・ロシア 虚像に怯えるな』(草思社)など。最新刊は『日本がウクライナになる日』(CCCメディアハウス)  <筆者の過去記事一覧はこちら

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン最高指導者ハメネイ師、攻撃後初めて公の場に 

ワールド

ダライ・ラマ「130歳以上生きたい」、90歳誕生日

ワールド

米テキサス州洪水の死者43人に、子ども15人犠牲 

ワールド

マスク氏、「アメリカ党」結成と投稿 中間選挙にらみ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚人コーチ」が説く、正しい筋肉の鍛え方とは?【スクワット編】
  • 4
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 5
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    「詐欺だ」「環境への配慮に欠ける」メーガン妃ブラ…
  • 8
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 9
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 10
    「登頂しない登山」の3つの魅力──この夏、静かな山道…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 5
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 6
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 7
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 8
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 9
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story