コラム

G7で日韓首脳会談を拒否したと威張る日本外交の失敗

2021年06月18日(金)11時10分

G7の舞台コーンウォールに到着し、ジョンソン英首相夫妻に挨拶する韓国の文大統領夫妻 Peter Nicholls-REUTERS

<朴槿惠がかつて慰安婦合意で屈辱的譲歩を吞むことになったのも、外交舞台で日本との対話を頑なに拒否し続けた結果だった>


朴(槿惠)氏は6月に米国を訪問するが、同氏は米国による日韓関係の改善要求に備えなければならない。最高の結果は日本と韓国との2国間首脳会議となるだろう。

朴氏が最終的に日本との首脳会談に応じるなら、何の譲歩もなしに安倍氏と対話をすることになろう。朴氏が拒絶すれば、安倍氏の歴史修正主義ではなく、韓国とその頑固さが問題であるとの認識が一段と強まろう(ウォールストリート・ジャーナル, 2015/4/30)。


2015年のことである。

日韓関係はこの年も大きな行き詰まりを見せていた。はじまりは3年前の二つの国政選挙であった。即ち、2012年12月、時をほぼ同じくして行われた日韓両国の選挙にて、日本では安倍晋三が率いる自民党が大勝を収めて政権に復帰した。韓国では、朴槿惠が文在寅を僅差で破って大統領に当選し、翌年2月に控える自らの就任に備えて、その準備を活発化させた。

この様な状況の中、日本では来るべき朴槿惠政権が、悪化する日韓関係の改善の為に対話に乗り出すのではないか、という期待が高まっていた。安倍と朴槿惠の間には、安倍の祖父である岸信介と朴の父である朴正熙との間に始まる、長い私的交流の歴史もあったからである。

首脳会談拒否という悪手

しかしながら、朴槿惠は自らの正式な大統領就任の以前から、日本に対して冷淡な姿勢に終始した。即ち、朴槿惠は慰安婦問題の解決の為に日本政府が自ら動かないことを問題視し、この問題において韓国側が受け入れ可能な措置が講じられない限り、両国の関係改善は不可能だ、として強硬な姿勢に終始した。

そしてそこにおいて朴槿惠が取った手段の一つが、安倍との首脳会談拒否だった。朴槿惠は併せて、アメリカを始めとする各国に慰安婦問題をはじめとする歴史認識問題において、自らの主張を積極的にアピールした。この朴槿惠の行動が「告げ口外交」と呼ばれ、日本国内で忌み嫌われることとなったのは、未だ我々の記憶に新しい。

とはいえ、それは奇妙な反応であった。何故なら、この一連の朴槿惠の行動は、何れも日本に打撃を殆ど与えないものだったからである。アメリカを始めとする各国政府は、両国間に横渡る歴史認識問題そのものについて、特段の関心を有しておらず、故に朴槿惠のアピールがこれら諸国を動かすことはなかった。彼女が同時に行った日本との間の首脳会談拒否は、更に悪手であった。その理由は二つある。第一に韓国側による一方的な首脳会談拒否は、それが単に日韓関係における新たな問題の解決を遅らせるだけの効果しか持たず、日本側に対する具体的な圧力として全く機能しなかった。

プロフィール

木村幹

1966年大阪府生まれ。神戸大学大学院国際協力研究科教授。また、NPO法人汎太平洋フォーラム理事長。専門は比較政治学、朝鮮半島地域研究。最新刊に『韓国愛憎-激変する隣国と私の30年』。他に『歴史認識はどう語られてきたか』、『平成時代の日韓関係』(共著)、『日韓歴史認識問題とは何か』(読売・吉野作造賞)、『韓国における「権威主義的」体制の成立』(サントリー学芸賞)、『朝鮮/韓国ナショナリズムと「小国」意識』(アジア・太平洋賞)、『高宗・閔妃』など。


あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英雇用7カ月連続減、賃金伸び鈍化 失業率4.7%

ワールド

国連調査委、ガザのジェノサイド認定 イスラエル指導

ビジネス

25年全国基準地価は+1.5%、4年連続上昇 大都

ビジネス

豪年金基金、為替ヘッジ拡大を 海外投資増で=中銀副
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェイン・ジョンソンの、あまりの「激やせぶり」にネット騒然
  • 3
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く締まった体幹は「横」で決まる【レッグレイズ編】
  • 4
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 5
    ケージを掃除中の飼い主にジャーマンシェパードがま…
  • 6
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「この歩き方はおかしい?」幼い娘の様子に違和感...…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story