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アングル:英で国産発泡ワイン急成長、環境配慮も人気を後押し

2023年10月23日(月)08時06分

 いまやイングランド南部では丘の至る所にブドウ園が広がり、サステナビリティーへの関心も相まって、英国産のスパークリングワインが選択肢の一つとして人気を集めつつある。写真は英コーツ&シーリーのスパークリングワイン。6日、ロンドン中心部にある近現代美術館テート・モダンで撮影(2023年 ロイター/Susannah Ireland)

Sarah Young

[ボクスリー(英国) 16日 ロイター] - 英国では何百年もの間、祝宴での飲み物はフランス産のシャンパンが定番とされてきた。だが、いまやイングランド南部では丘の至る所にブドウ園が広がり、サステナビリティー(持続可能性)への関心も相まって、国産のスパークリングワインが選択肢の一つとして人気を集めつつある。

英国は世界で2番目にシャンパンの輸入量が多い国だ。第2次世界大戦中の英国を率いたチャーチル元首相もシャンパンの愛飲家として知られ、「勝利の時は飲む権利がある。負けた時は飲む必要がある」と述べていたほどだという。

だが、ここ数十年の気候変動により気温が上昇したことで、イングランドの気候もブドウ栽培に適するまでに変化した。品質も向上し、かつて近隣国から「雨の味がする」とやゆされることもあった英国産ワインは、もはや嘲笑の的ではなくなっている。

また、昨今高まっている二酸化炭素(CO2)排出量への懸念から、可能な限り輸入に頼らず国産を選ぶ英国の消費者や企業が増えつつある。

こうした傾向が後押しとなり、英国におけるワイン用のブドウ栽培は加速。現在、同国の農業で最も急成長を遂げている分野となっており、国内では世界の名だたるワイン生産国よりも速いスピードでブドウの作付けが行われている。

業界団体「ワインGB」は、英国では2030年までに年間ボトル2200万本のワインが生産されると予測している。昨年の約1200万本と比較すると、急速な増加が見込まれることになる。

「イギリスワインの需要はあまりに多く、生産が追い付かないほどだ」と英ワイナリー「チャペル・ダウン」のオペレーション・ディレクターで、ワイン醸造家のジョシュ・ドナゲースピア氏は言う。南部ケント州ボクスリーの畑で、ずっしりと実った白ワイン用のブドウ「シャルドネ」をひと房ずつ手摘みする従業員らを監督しながら取材に応じた。

古代ローマ帝国によって英国にブドウの木が持ち込まれてから2000年。英スパークリングワイン業界は、南部特有の石灰質の斜面と仏シャンパーニュ地方の地質的な類似点を生かしながら、シャンパン市場を追随するまでに成長している。

こうした勢いは業界大手の動きにも表れている。仏シャンパンブランドのテタンジェやポメリーは、英国内に土地を購入してワイン用ブドウの栽培を開始。世界最大の独スパークリングワイン企業ヘンケル・フレシネは昨年、英国のワイナリーであるボルニーを買収した。

昨年の「デキャンタ・ワールド・ワイン・アワード(DWWA)」で、英国は同国史上最多のメダルを獲得した。地元に近い場所で生産されたものを消費する方が環境的・社会的責任を果たしているとする「地産地消」の動きに加え、こうした実績を残していることが売上高につながっている、と生産者らは声をそろえる。

「品質が良いのなら、地元産の方が良い」とジェニーバ・ゲリンさん(45)は言う。ドキュメンタリー映画製作者のゲリンさんは、ロンドン中心部で行われたあるイベントで、コーツ&シーリーのスパークリングワイン「ブリュット・リザーブ」を試飲した。このワインは、ロンドンから120キロも離れていないハンプシャー州内のワイナリーで生産されている。

現在、英国には900カ所を超えるブドウ畑がある。農地や果樹園、牧草地だった場所が次々に転換され、その作付面積は2000年に比べて4倍にまで増加した。

「若い産業だからこそ、(持続可能性を)事業の中核に据えることができる」とワインGBの最高幹部を務めるネッド・オーティー氏は話す。

ワインGBはボトル1本のイギリスワイン生産時にかかる「カーボンフットプリント(CO2排出量)」を明確化するプロジェクトを進めている。ただ既に、輸送にかかる排出量が少ない商品の方が輸入ワインよりも顧客を獲得しうることは十分証明されている、とオーティー氏は指摘する。

<ネットゼロ>

「ネットゼロ(炭素排出実質ゼロ)」の取り組みに悩むイベント主催者にとって、イギリスワインを提供することも持続可能性に対する「明確な意思表示」のひとつだ、と話すのはハーミッシュ・アンダーソン氏だ。同氏は国立美術館を運営する「テート」のイベントやレストラン事業を行うテート・エンタープライズの最高責任者を務めている。

「顧客から持続可能性に関して尋ねられる機会は、ますます増えている。英国産ワインやスパークリングワインは、それにぴったりはまる要素だ」と、同氏は話す。

テートの美術館を会場としたイベントで提供されるスパークリングワインは現在、英国産がおよそ60%を占め、残りは仏シャンパーニュ地方のものだ。アンダーソン氏はイギリスワインの割合を70%にまで引き上げたいと考えている。

英国内のスパークリングワイン市場の占有率は、英国産は量にして3%、フランス産のシャンパンは12%だ。調査会社IWSRの「飲料市場分析」によると、英国産スパークリングワインは2021ー22年で22%成長した一方、シャンパンは1%の低下がみられたという。

どちらも20ポンド(約3600円)以上の値が付く傾向にあり、業界の先頭を走るイタリアのスパークリングワイン「プロセッコ」の値段の2倍以上にあたるという。

英イベント・レストラン経営のサーチーズが主催するイベントでの英国産スパークリングワインの売り上げは、5年前はほぼゼロも同然だったが、今では全体の25%を占める。同社のシャンパン・飲料担当マーティン・ディベン氏は、今後5年間で50%に増加するだろうと見込んでいる。

「サステナブルであることは、顧客の心をそそる要素だ」

英国最大のワイナリーであるチャペル・ダウンは、2023年上半期の売上高が21%増加しており、26年までに21年の2倍に成長させることを目標としている。ブランドの認知度を向上させるため、クリケットの試合や競馬のレースでスポンサー企業になっているほか、第2ワイナリーでの見学を受け入れている。前出のドナゲースピア氏はこう語る。

「訪れた人々は、栽培されているブドウや土壌を見学し、ワインを試飲し、ワイナリーに親しみを覚える。これは、実に効果的なことだ」

ロイター
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