ニュース速報

ワールド

アングル:ブラジルで広がる農地再生、森林破壊せず収穫拡大

2023年10月07日(土)08時18分

 ブラジル中部ゴイアス州で農業を営むリカルド・サンティノニさん(49)が20年前に最初に大豆を栽培したときには、70ヘクタールに作付けするのがやっとだった。写真は大豆畑を歩くアメリカダチョウ。2018年2月、トカンティンス州バーハ・ド・オウロ近郊で撮影(2023年 ロイター/Ueslei Marcelino)

Fabio Teixeira

[ピレスドリオ(ブラジル) 4日 トムソン・ロイター財団] - ブラジル中部ゴイアス州で農業を営むリカルド・サンティノニさん(49)が20年前に最初に大豆を栽培したときには、70ヘクタールに作付けするのがやっとだった。それが今や作付面積は1000ヘクタールに拡大。しかも、木を一本も切ることなく成し遂げた。

サンティノニさんが父親から譲り受けた土地は、かつては広大なセラード(ブラジル内陸中央部に広がる熱帯サバンナ地帯)の一部だった。数十年前に開墾されたが、その後、生産性が落ちたため放棄され、荒廃した牧草地となっていた。

サンティノニさんは農学者のフェルナンダ・フェレイラ氏と協力し、トウモロコシや豆類などを輪作し、牛を放牧してたい肥をまいて土壌を豊かにし、何年もかけてこの荒廃した牧草地を徐々に肥沃な土地に戻してきた。

農場の事務所でトムソン・ロイター財団のインタビューに応じたサンティノニさんは「私自身は巨大な全体の小さな一部分だと思っている」と話した。指差した先には「持続可能な方法で生命を養おう」というスローガンが掲げられていた。

大豆生産は森林破壊と密接に結びついており、「持続可能性」という言葉とほぼ無縁だった。しかし、サンティノニさんによると、土地を新たに開墾するのではなく、やせ細った土地の再生に取り組む農家が増えている。

ゴイアス州は国内第3位の大豆生産州。5月から9月の乾期は主要作物である大豆の収穫後の時期にあたり、農地では枯れた茎が乾燥した土壌に散乱し、あたり一面が黄色と茶色に覆われる。

だが、サンティノニさんの農場は、8月になっても雨が降っていないというのに、豆や牧草が青々としている。

「この土地で実践していることにより、私は地球の持続可能性に大きく貢献している」と、サンティノニさんは胸を張った。

<食料需要と自然保護>

米農務省によると、ブラジルは近年、米国を抜いて世界最大の大豆生産国となり、今年の収穫量は1億5500万トンと過去最高を記録する見込み。大豆の作付面積は4500万ヘクタールとスウェーデンの国土に匹敵する。

さらにブラジル政府の推定によると、大豆など食用作物の生産再開が可能な荒廃した牧草地が約1億ヘクタールもある。

ブラジルは数十年も前から土地の再生に取り組んできたが、各国政府が地球温暖化対策を進める中で、農地開墾に代わる手法として改めて注目を集めている。

ブラジル政府は今年7月、再生のための基金設立計画を発表した。8月の地元経済紙の報道によると、投資家から約1200億ドルを集め、今後10年間で4000万ヘクタールの再生を目指すという。

<森林破壊に歯止め>

フェレイラ氏によると、サンティノニさんの農場は化学肥料の使用を減らしているにもかかわらず、大豆の収穫量が着実に増えている。1ヘクタール当たりの収穫量は2004年には平均49袋(1袋=60キロ)だったが、今では75袋に増加。26年までに100袋にすることを目指している。土地管理技術の中心は輪作で、牛の放牧のために牧草も植えているという。

非営利団体クライメット・ポリシー・イニシアティブ(CPI)の政策評価責任者、プリシラ・ソウザ氏は、これ以上の森林破壊を避けるためには、土地の再生と生産性の向上が不可欠だと指摘する。

ブラジルの森林を保護する手立てとして土地再生は期待を集めているが、特に資金や専門知識を持たないことが多い小規模農家に対しては、政府の支援が必要だという。

<農業文化に変化も>

政府の直接的な支援措置がなくても、ブラジルでは農地再生が経済的に理にかなっている場合が数多くあり、投資会社がそうしたチャンスを探し始めている。

エンブラパのアナリスト、ペドロ・エンリケ・デ・アルカンタラ氏は「農家にとって(合法的に伐採された)土地を新規開拓するよりも荒廃した土地を再生する方がずっと安上がりだ」と話す。

ブラジルの金融サービス会社パラミス・キャピタルは、荒廃した土地を買い取って再生する5億レアル(1億0060万ドル)のファンドの組成を進めている。

サンティノニさんにとって、森林破壊に対する国際的な圧力が高まる中、自分の農場をより持続可能なものへとシフトすることは大きな転機であり、農家新世代の考え方の変化を映している。

大豆の収穫量が減れば生産者は競争力を失い「市場から弾き出される」のだから、この転機には農家の生き残りもかかっているという。

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:米との貿易協定リセットは困難か、違憲判決

ワールド

トランプ米大統領、代替関税率を10%から15%に引

ビジネス

エヌビディアやソフト大手の決算、AI相場の次の試金

ワールド

焦点:「氷雪経済」の成功例追え、中国がサービス投資
MAGAZINE
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
特集:ウクライナ戦争4年 苦境のロシア
2026年2月24日号(2/17発売)

帰還兵の暴力、ドローンの攻撃、止まらないインフレ。国民は疲弊しプーチンの足元も揺らぐ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 2
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面を突き破って侵入する力の正体が明らかに
  • 3
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官が掲げる「新しいスパイの戦い方」
  • 4
    揺れるシベリア...戦費の穴埋めは国民に? ロシア中…
  • 5
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 6
    「窓の外を見てください」パイロットも思わず呼びか…
  • 7
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 8
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 9
    「高市トレード」に「トランプ関税」......相場が荒…
  • 10
    ウクライナ戦争が180度変えた「軍事戦略」の在り方..…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 3
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体には濾過・吸収する力が備わっている
  • 4
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 5
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 6
    オートミール中心の食事がメタボ解消の特効薬に
  • 7
    なぜ「あと1レップ」が筋肉を壊すのか...「高速パワ…
  • 8
    「目のやり場に困る...」アカデミー会場を席巻したス…
  • 9
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 10
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 9
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中