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アングル:気候変動で移住増加、世界的対応には富裕国の支援必須

2022年11月19日(土)08時08分

 マーシャル諸島の気候変動担当特使、ティナ・ステゲさんが住む環礁は海抜2メートルで、海までの距離も近い。写真はナイジェリアのエナゴアで、洪水の中カートを押す男性。10月18日撮影(2022年 ロイター/Tife Owolabi)

[シャルムエルシェイク(エジプト) 16日 トムソン・ロイター財団] - マーシャル諸島の気候変動担当特使、ティナ・ステゲさんが住む環礁は海抜2メートルで、海までの距離も近い。「ほとんどどこにいても島の両側に海が見える」状態で、海面上昇から逃れる余地はない。気候変動で海洋の温度が上がり、世界中で氷が解けた結果だ。

今後数年間にわたり、マーシャル諸島の国民約6万人を海面上昇から救うには、住宅やインフラをかさ上げするために何百億ドルもの投資が必要になるが、資金の当てはない。

ステゲさんはエジプトで開催中の国連気候変動枠組み条約第27回締約国会議(COP27)で「私の国には高い土地がない。高台に移るなら作らなければならない」と訴えた。

ステゲさんなど、海面上昇や干ばつ、暴風雨など気候変動で打撃を受けて自宅にとどまるのが難しくなっている世界中の何百万もの人々は、最終的に移住を選ばざるを得なくなる可能性が高い。

国際移住機関(IOM)のビトリーノ事務局長は「今の状況で人々が移動しないと考えるほど、のんびりしていてはいけない」と述べ、気候変動はすでに「人の移動に深刻な影響を及ぼしている」と指摘した。

気候変動の影響が増すにつれて、どれだけの人々が移住する可能性があるのか、正確に推計するのはほぼ不可能だ。気候変動によるショックの規模やタイミングを予測することは難しく、人々が移住するかどうかは、復興支援の規模など極めて幅広い要因に左右されるからだ。

国内避難監視センター(IDMC)によると、昨年は約2370万人が災害によって、通常は一時的とはいえ家を奪われて国内で移動した。その多くは異常気象に関連していた。

世界銀行によると、気候変動に対処するための真剣かつ迅速な行動がなければ、2050年までに約2億1600万人が気候変動の影響によって国内で住む場所を変える可能性がある。

気候変動に関連する移住の大半は、海外への出国ではなく国内で行われていると専門家は指摘する。しかし、低地の小さな島国では国内移住という選択肢がない可能性もある。

さらに欧州委員会人道支援・市民保護総局 (ECHO)のミヒャエル・ケーラー局長代理は、紛争難民と気候変動に起因する移民を区別することも難しくなっていると指摘する。

専門家によると、例えば、アフリカのサヘル地域では、干ばつによる水不足と農業の失敗で家族が離散し、過激派グループが収入を求める若者を簡単に勧誘できるようになり、それが紛争をあおっている。

<移住の防止>

気候変動に関連した移住を食い止めるためには、弱い立場の人々が変化に適応し、ショックに対する回復力を高められるような取り組みと資金を強化する必要があると、小島しょ開発国と発展途上国の国連代表であるラバブ・ファティマは話した。「こうした全ての弱い立場に置かれている国に対し、適応のための資金を増やすことが緊急に必要だ」という。「気候関連の大災害から何百万人もの命を救うために、適応への投資を世界的に急増させることが不可欠だ」とも指摘した。

こうした国々のクリーンな成長と気候変動の脅威への適応を支援するために、富裕国は2020年までに年間1000億ドルを拠出すると約束した。しかし、一部しか実行されておらず、これがCOP27の協議で問題になっている。

一方、IOMのビトリーノ氏によると、こうした気候変動適応策への支出に加え、早期警戒システムの改善や、「予測的行動」といった人命救助に関する手法の改善に投資することも、移住を抑えるのに役立つという。

予測的行動とは、災害が予想される数日前に少額の現金を各家庭に配り、災害に備えてもらうといった対応策だ。

国連世界食糧計画(WFP)によると、2020年にはバングラデシュで洪水が予想される5日前に、14万2000人に災害に備えるための現金給付を行った。その結果、災害時に家庭が食料不足に陥る可能性が3分の1減った。

国連食糧農業機関(FAO)は、こうした支援が1ドル実施されるごとに7ドルの損害を防ぐことができると計算している。

ただ、ビトリーノ氏は、人々を守るための取り組みを強化しても、気候に関連するすべての移住を防ぐことはできないと慎重で「安全で秩序ある」移住のための計画も必要だと強調した。

(Laurie Goering記者)

ロイター
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