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マクロスコープ:人手不足でも求人慎重、企業に微妙な変化 賃上げの勢い鈍化も

2026年04月01日(水)11時26分

写真は2019年1月、都内で撮影。REUTERS/Issei Kato

Kentaro Sugiyama

[東京 1日 ロイ‌ター] - 人手不足感が強い中、企業の採用姿勢に微妙‌な変化が出てきた。雇用関連指標で求人件数が減少し、広告の掲載も鈍​化している。企業が需要の弱さを意識し始めた兆しといえそうだ。中東情勢を背景とした物価高やコスト増が採用活動をさらに慎⁠重化させる可能性があり、これまで​人手不足が後押ししてきた賃上げの勢いにも影響を及ぼすおそれがある。

<人手不足でも求人減>

日銀が1日に公表した3月短観の雇用人員判断DI(全規模・全産業)はマイナス38(不足超)、先行きはマイナス42と、不足感がさらに強まる見通し。大企業から中小企業まで幅広く人手不足感が意識され、依然として強力な「売り手市場」の状況が続いている。

一方、足元のハード⁠データからは、企業の採用行動に慎重化の兆しが見え始めている。厚生労働省がハローワークのデータを基にまとめている「一般職業紹介状況」によると、2月は新規求人数(原数値)⁠が前年同月​比7.8%減となった。産業別では、卸売・小売業が17.9%減、生活関連サービス・娯楽業が17.0%減、宿泊・飲食サービス業が14.7%減など、対面型サービスを中心に減少が目立つ。

全国求人情報協会のデータでも、2月の職種別求人広告件数は前年同月比15.6%減となった。21職種中17職種が減少。事務職が43.8%減、販売職(営業)が20.3%減など、主要なサービス業・ホワイトカラー領域で落ち込みが確認された。

大企業ではなお人材確保に動く企業が多いものの、一部では「人が足りない」と認識しつつ、「新たな求人は出さない」という選択をし始めて⁠いる。こうした労働需給のかい離について、企業が「トップライン(売上高)」の伸‌びに限界を感じ始めているため、との見方が出ている。

大和証券の末広徹チーフエコノミストは「企業が需要サ⁠イドの弱⁠さを察知している」と指摘する。物価高や円安によるコスト増が企業の損益分岐点を押し上げる一方、これまでの価格転嫁によって消費者の購買力は削られ、追加の値上げに対する抵抗感は根強い。「コスト増に対し、トップラインの伸びが期待できないため、求人が減っているというのが実態だろう」という。

企業にとって、コスト増を価格転嫁しきれない中での賃上げや新規‌雇用は、直接的な収益悪化要因となる。事務職などの求人急減は、企業が組織の効率化や省力​化投資(DX)‌へのシフトを加速させ、単純な労⁠働力の「量」を絞り込み始めた可能性も示唆​している。

<消費伸び悩みリスク>

日本経済が「賃金と物価の好循環」を実現する上で、原動力となってきたのは「賃金を上げなければ人が採れない、あるいは流出する」という企業の危機感だった。採用の抑制は賃上げモメンタムの低下につながる可能性がある。

今年の春季労使交渉(春闘)集中回答日に相次いだ高水準の賃上げも、中東情勢など外部環境への関心が高まる中で、インパクトがかすんだとの見方‌もある。これまで春闘を通じて形成されてきた賃上げの機運が弱まり、企業の賃金判断にも影響を及ぼすおそれがある。

家計の可処分所得の伸びが鈍化すると、個人消費にブレーキがかかるリ​スクが高まる。中東情勢を起因とした原油高は、サービス⁠価格にコストプッシュ型のインフレ圧力として波及する見通し。賃金主導型と異なり、コストプッシュ型のインフレは家計の購買力を直接削ぐため、消費の伸びを抑制しかねない。

人手不足はなお構造的な課題として残るが、足元で見え​始めた採用の慎重化は、物価・賃金・消費の相互作用を通じ、日本経済の力学に変化をもたらす可能性がある。4月以降に本格化する中小企業の賃上げや雇用指標の動きは、こうした変化が一時的な調整にとどまるのか、それとも賃上げモメンタムの転換点となるのかを見極める材料となりそうだ。

(杉山健太郎 グラフィック作成:田中志保 編集:橋本浩)

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