コラム

ゼレンスキー「必要なのは弾薬であり乗り物ではない」に世界がしびれた

2022年12月22日(木)14時20分
ゼレンスキー

ILLUSTRATIONS BY MANGORINAART/SHUTTERSTOCK, ALEX SHOLOM/ISTOCK

<毅然としたリーダーがいれば世界は変えられる。ゼレンスキーの決断が2023年も世界を型作り、揺るがすだろう>

2022年2月24日、世界第2位の規模を誇るロシア軍が、ウクライナ侵攻を開始した。だが、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領はひるまなかった。「ロシアに屈しない」と国民を結束させ、世界を鼓舞した。

それは、毅然としたリーダーが1人いれば、歴史は変えられることを世界に示した瞬間でもある。ゼレンスキーのおかげで、ウクライナは国家として、民族として、存続できた。

そんなゼレンスキーの決断が、2023年も世界を形作り、揺るがすだろう。ウクライナ戦争は世界の食料価格と、数百万人の空腹と生死、そして政治社会の動向に影響を与えるはずだ。

わずか3年前までは、ほとんどの人が気にもかけなかった国の、愉快で謙虚な元俳優の肩に、世界の運命が懸かっている事実は驚嘆に値する。

ゼレンスキーは、偉大なリーダーに必要な資質を兼ね備えている。第1に、たとえ困難な状況にあっても、自分の満足より理念を優先する道徳観と決断力を持ち合わせている。

ロシアの侵攻当初、首都キーフ(キエフ)陥落は時間の問題だと、多くの専門家は思っていた。だが、ゼレンスキーは国外退避を勧める米政府の申し入れをきっぱり断った。

「私がいま必要としているのは弾薬であり(退避のための)乗り物ではない」という答えに世界がしびれた。

偉大なリーダーは、人民の熱意に共感し、それを政策に反映させる。また、往々にして漠然とした人々の信念を説得力のある形で表現して、大衆を鼓舞する。

確信と誠実な思いと目的を伝えて、困難な中でも人々が希望に手を伸ばすよう促す。

ゼレンスキーのこうした資質が、2023年もウクライナと世界を動かすカギになることは間違いない。

(編集部注:ゼレンスキーは12月21日、ワシントンを訪れ、バイデン米大統領と会談。ロシアの侵攻後初めての外国訪問を果たし、支援の継続を訴えた)

2022122720230103issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2022年12月27日/2023年1月3日号(12月20日発売)は「ISSUES 2023」特集。中国、民主主義、インフレ、米中関係......ウクライナ戦争が変えた世界の進路。PLUS 注目すべき次の10人。――2023年の世界を読む新年合併号です

プロフィール

グレン・カール

GLENN CARLE 元CIA諜報員。約20年間にわたり世界各地での諜報・工作活動に関わり、後に米国家情報会議情報分析次官として米政府のテロ分析責任者を務めた

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ政権、予算教書を公表 国防以外で1630億

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、堅調な雇用統計受け下げ幅縮

ワールド

トランプ氏誕生日に軍事パレード、6月14日 陸軍2

ワールド

トランプ氏、ハーバード大の免税資格剥奪を再表明 民
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた
  • 2
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 3
    日々、「幸せを実感する」生活は、実はこんなに簡単に作れる...カギを握る「2時間」の使い方
  • 4
    インドとパキスタンの戦力比と核使用の危険度
  • 5
    目を「飛ばす特技」でギネス世界記録に...ウルグアイ…
  • 6
    宇宙からしか見えない日食、NASAの観測衛星が撮影に…
  • 7
    古代の遺跡で「動物と一緒に埋葬」された人骨を発見.…
  • 8
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 5
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が…
  • 10
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story