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イギリス離脱後のEUで、なぜ「英語公用語論」が逆に強まったのか?...「英語が止まらない」ポーランドとEUの舞台裏

2025年09月03日(水)11時10分
貞包和寛(大妻女子大学家政学部専任講師)

公用語平等主義は加盟各国のナショナリズムの調整弁という側面があるため、今後のEUがこれを撤回するということはないであろう。とはいえ、イギリスが離脱したことによってはじめて、英語がEU内で限りなく中立に近い立場を得たと言えるのである。

英語との付き合い方の観点から2つの事例を検証した。ポーランドの事例を見ると、言語は単なるコミュニケーションツールとは呼べないということがよく分かる。「ツール」と割り切るには、歴史認識や使用者の感情など、あまりにも様々なものが言語に付着しているからである。

一方でEUの事例を見てみると、イギリスが離脱したことで英語公用語論が強まった。国家がなくなったことで、その言語(この場合は英語)を「単なるコミュニケーションツール」とみなす土壌が形成されたと言える。

言語の最大の付着物は実は「国家」なのかもしれないと考えさせられる事例であった。


貞包和寛(Kazuhiro Sadakane)
1988年佐賀県生まれ。東京外国語大学外国語学部卒業。同大学院博士後期課程修了。博士(学術)。専門は社会言語学、言語政策論、ポーランド地域研究。単著に『言語を仕分けるのは誰か──ポーランドの言語政策とマイノリティ』(明石書店)、分担執筆に『ウクライナを知るための65章』(明石書店)、『言語政策研究への案内』(くろしお出版)、『EU百科事典』(丸善出版)など。


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