一方で、日本とは異なっている部分もある。ポーランドは1999年に「ポーランド語に関する法律」を制定した。この法律によると、商品やサービスの名称、説明書、広告などにおいて、ポーランド語の使用が義務化されている。また、公的機関は原則としてポーランド語を使用することも定められている。
日本と比較すると非常に詳細な規定だが、「ポーランド語に関する法律」の序文にはさらに驚かされる。そこには「分割者と占領者が民族性を奪う手段としてポーランド語を抑圧したという歴史の経験に留意し、この法律を制定する」と、法律文らしからぬ文言が出てくるからである。
「分割者」とは、18世紀後半の三国分割を実行したロシア、プロイセン、オーストリアを指す。一方で「占領者」とは、第二次大戦でポーランドを占領したドイツとソ連を指す。
こうした近現代史における経験もあってか、国家としてのポーランドはかなり保守的な言語観を持っている。日本でも、カタカナ語の使用などに対して「日本語の純粋性を守るべきだ」とする意見が出るが、ポーランドでもそうした純粋主義的な考え方は非常に根強い。
とはいえ、ドイツ語やロシア語はポーランド史において「侵略」のイメージが付着しているが、英語にはそうした負のイメージはない。社会主義体制下においては西側諸国の「自由」を、体制転換後は「国際化」を象徴する言語が英語なのである。
言い換えれば、戦後80年を通じて「英語=格好いい」というイメージが継承されてきたのである。よって、上に挙げたような英語由来の外来語の流入は、むしろポーランド人が進んで取り入れている側面も多分にある。
こうした変化が保守的な言語観とどのように折り合いがつくのか、筆者もまだ明言できない。
次に、EU(欧州連合)の事例を考えてみたい。主権国家の集合体であるEUは、加盟国の公用語すべてをEU公用語とする政策をとっている。これにより、現在のEUは24の公用語が存在する。
とはいえ、現場事務から意思決定にいたるまで、ほとんどの段階で英語が使用されており、次いでフランス語・ドイツ語が使用されている。複数の言語を高いレベルで使いこなせる人間はそうそういるはずもなく、24言語を習得している人間などもとより非現実的なので、当然と言えば当然である。
歴史を振り返ると、EUが加盟国を増やして拡大していくにつれて、EU内での英語使用は高まっていった。