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論壇

右派論壇の「語り」は、なぜ人々に届くのか?...「ファンダム化するメディア」からSNS時代のジャーナリズムの輪郭を描き直す

2025年08月13日(水)11時00分
田中 瑛(実践女子大学人間社会学部社会デザイン学科専任講師)

そして、「マスコミは間違うこともあるが、間違いを正そうとするものでもある」という態度が、読者との信頼関係を結び直すのに寄与するのではないかと結論づける。

真実は、間違えることを前提に議論を繰り返し、事実を鍛造する実践のなかで見出されるものだ。にもかかわらず、こうした煩雑なプロセスを一人称の言語領域において表現することは、これまでの報道の慣行の中で余分なものとして退けられてきたのかもしれない。

記者が自分自身の可謬性を素直に開示するということは、読者に呼び掛けられ、応答できる存在として自らを他者に開くということでもある。そして、このことは、速報性と正確性の提供にのみ裏打ちされた「信頼」とも異なる「信頼」のあり様をイメージさせる。

いわば、煩雑な判断を他者に委ね、システマティックに省略する手段としての有用性としての「信頼」ではなく、鶴見氏が言うところの「期待の次元において同時代をとらえる」営みを共に遂行するパートナーとしての「信頼」に組み替える営みである。

今後、そうしたジャーナリズムの思想と言語を共有する「記者-読者」の共同体が、いかなる環境において産み出されるのかを考えていきたい。

SNSにおける一人称の語りが商業的な仕方で最適化され、際限なく流通する現在、不確実で結論の出ない曖昧な問題について、悠長に対話を重ねる暇は社会全体からますます失われてきている。

確実で間違いがなく見えるものを手際よく選択し、消費せざるを得ない状況も痛感するところであり、筆者としても頭を悩ませる点である。だからこそ、現場と学術、送り手と受け手の垣根を超えながら、共に問い続けることができればと思った。


田中 瑛(Akira Tanaka)
1993年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業(同メディア・コミュニケーション研究所修了)、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。日本学術振興会特別研究員(DC1)、九州大学大学院芸術工学研究院助教を経て現職。著書に『〈声なき声〉のジャーナリズム──マイノリティの意見をいかに掬い上げるか』(慶應義塾大学出版会、2024年)。


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