この映画のファーストカットは、池の水面上に雨で広がる波紋である。これは後にオッペンハイマーが幻視する全面核戦争のイメージにつながることはいうまでもない。
その次のカットは、池の波紋をけわしい表情で見つめるオッペンハイマーの顔だ。これは間違いなく、1947年に彼がプリンストン高等研究所に赴任したとき、相対性理論で知られる物理学者アルベルト・アインシュタインと、池のほとりである会話を交わした直後の表情であろう。
その次のカットは雨雲と雨である。そこでオッペンハイマーは我に帰り、聴聞会の場面となる。つまりファーストカットを含むファーストシーンは、聴聞会中のオッペンハイマーの回想であった。
プリンストン高等研究所での1947年のオッペンハイマーとアインシュタインとの会話が、この映画で初めて描かれるのは、白黒のパート、つまりストローズの公聴会中での回想である。このとき、ストローズには2人の会話は聞こえないのだが、わずかに雷または強風の音がする。
アインシュタインの帽子が飛ぶほど風が強い。だが雨は降っていない。これから降るのだろうか。アインシュタインがオッペンハイマーとの会話を終え、ストローズのほうに向かってくる。ストローズはアインシュタインに声をかけるのだが、アインシュタインはそれを無視して通り過ぎる。
マンハッタン計画が始まったばかりの頃、科学者たちが集まっている中、後に「水爆の父」として知られることになるエドワード・テラーは「連鎖反応を計算していたら、かなり厄介な可能性を見つけたよ」と言い、紙を見せる。それを読んだ科学者たちは動揺する。
オッペンハイマーもそれを読んで驚き、物理学者のハンス・ベーテに「これを計算しておいてくれ」と言いつつ、自分はプリンストンに行き、アインシュタインに相談する、と言う。
プリンストン高等研究所で、オッペンハイマーはアインシュタインに会う。アインシュタインは数学者のクルト・ゲーデルと散歩していた。オッペンハイマーはアインシュタインに紙を渡す。アインシュタインはそれを読む。
オッペンハイマーはその様子を幻視する。
アインシュタインは紙を読んでうなづく。
オッペンハイマーは、地球全体が炎に包まれる様子を幻視する。
テラーが「厄介な可能性」と呼び、アインシュタインが「大気に引火する」と表現したことは、以下のようなことだ。