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ウクライナ戦争の教訓は「理念や価値観を共有する仲間は、多いほうがいい」

2023年03月01日(水)08時10分
廣瀬陽子+山口 昇+中西 寛 構成:西村真彦(国際日本文化研究センター 機関研究員)

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廣瀬 ロシアもウクライナも、ハイブリッド戦争、つまり非正規戦と正規戦を組み合わせた戦争を展開しています。前者にあたるサイバー戦や情報戦は、ハイブリッド戦争を展開する上で痛手が大きい実戦に踏み込まずに相手にダメージを与えられることから、とても重要な意味を持っています。

しかし、今後、中国、ロシアがサイバー戦、情報戦をますます仕掛けてくる可能性があるにもかかわらず、日本にはこのような問題に対する危機感が極めて薄く、それは大きな弱点になっていると思います。

サイバー攻撃で日本の一番の盲点になっているのが中小企業や町工場などです。それらが攻撃をされると、そことつながっている大手企業にまでダメージが生じる事例が実際に多々起きています。やはり日本全体でサイバー問題の意識を高めて、対策を講じていくということが大切です。

中西 ロシアは2016年にアメリカ大統領選挙に干渉し世論工作を行ったと言われていますが、日本に対してはどうでしょうか。

廣瀬 情報戦については、幸か不幸か、日本は英語に疎いので、海外からの影響工作の影響を受けづらい傾向が今まではありました。しかしAIの翻訳機能が飛躍的に向上している中、AI翻訳による日本語もかなり自然な感じになってきています。そのため今後は、ますます情報戦が増える可能性があります。実際にヤフーのコメント欄に、ロシアなどからの書き込みがあることが判明しています。

こうなりますと、フェイクニュースなどをきちんと読み取れるよう、メディアリテラシー能力の強化を義務教育から行っていく必要があり、それこそが日本の安全保障政策の重要な一部となると思います。

中西 最後に日本の対露政策についてお考えを伺えますか。

廣瀬 今回の戦争で、日本の対露外交は大転換を図らなければなりませんでした。特に安倍政権時代にはロシアとの関係を重視して、首脳レベルの関係から経済協力につなげ、そこで信頼関係を醸成することで北方領土返還を狙うという外交が展開されていました。しかし何も残せず、むしろ失ったものが非常に大きいという結果となりました。

ロシアはビジネス主体の外交を決して望んではいませんでした。むしろ、もう大国として支援をされる立場ではないにもかかわらず、日本が上から目線で支援をしてくることは許し難いというような感情を持っていたようです。それにビジネスという視点でいえば、日本側が提示するプロジェクトはロシアにとっては全て小さ過ぎでした。

中西 日露間に経済協力をめぐる認識ギャップがあったということですね。

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