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ウクライナ戦争の教訓は「理念や価値観を共有する仲間は、多いほうがいい」

2023年03月01日(水)08時10分
廣瀬陽子+山口 昇+中西 寛 構成:西村真彦(国際日本文化研究センター 機関研究員)

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山口 他国に侵攻することはそう簡単ではないという教訓です。中国の場合は陸軍兵力を台湾まで海を越えて送る必要があります。しかし、地続きのウクライナ侵攻ですら簡単ではありませんでした。この強い抵抗はウクライナ国民の意思や、理念を共有するNATOに支えられています。

ですから、希望を持てる部分もあります。この戦争から学ぶべき一番大事なことは、価値観や理念を共有する仲間たちができるだけ多いほうがいいということ、そしてその仲間たちと協力できるような素地を作っておくということです。

中西 やはり理念や大義といったものが戦争を大きく左右するということでしょうか。物理的な力だけではなくて、精神的、政治的な要素をどう考えるかということも忘れてはいけないですね。

最後に日本の安保防衛政策が大きな転換期にあることは多くの人が認めるところですが、今後の日本にとっての課題について、お話しいただけますでしょうか。

山口 表に出て勇ましく見えるところだけではない、弾薬の備蓄や戦闘機の防護バンカーの整備といった後方のことも含めて、ミサイルや船、戦闘機といった正面装備だけに注目していてはいけないという点です。その際、国民の皆さんに厳しい目で見ていただき、上滑りにならないよう地道に議論しなければいけません。

中西 2022年12月に日本政府は、反撃能力の保有方針を含む、新たな戦略文書を閣議決定しました。

山口 反撃能力として整備されるミサイルは1000キロ先の目標にも届きますが、ミサイルを持つだけではほとんど役に立ちません。何年も監視し、どこにどういう目標があって、どういう強度を持った防護の体制にあるかを分かっていないと、撃っても何の意味もないからです。そして、仮に目標情報はあったとしても、実際の効果を確認する必要があります。

しかし、実はこれが大変です。自衛隊だけで完結しないからです。防衛省は長距離の目標観測は米軍に当面は依存する方針のようですが、日米で役割分担する上でも考えなくてはいけない点です。

中西 廣瀬先生は「ハイブリッド戦争」という概念でご著書『ハイブリッド戦争──ロシアの新しい国家戦略』(講談社新書)も書かれていますが、今回の戦争から引き出すべき日本の教訓はなんでしょうか。

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