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ウクライナ戦争の教訓は「理念や価値観を共有する仲間は、多いほうがいい」

2023年03月01日(水)08時10分
廣瀬陽子+山口 昇+中西 寛 構成:西村真彦(国際日本文化研究センター 機関研究員)

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左より中西寛氏(京都大学大学院法学研究科教授、アステイオン編集委員)、廣瀬陽子氏(慶應義塾大学総合政策学部教授)、山口昇氏(国際大学国際関係学研究科教授)

廣瀬 2014年にロシアがクリミア併合をし、また東部の混乱を起こした後、欧米がロシアに大規模な制裁をかけましたが、日本はロシアとの関係悪化を恐れ、制裁をかけたくなかった中、G7メンバーとして何もしないわけにはいかないということで、最小限度の制裁を発動するにとどまりました。

それにより、日本はG7の中で浮いてしまい、しかもロシアからは「制裁をかけるような国と交渉はできない」と突っぱねられ、「二兎を追う者は一兎をも得ず」という状況になりました。

今回、岸田政権がG7と同調する形で強い政策をロシアに取るのはとてもよいことだと思いますが、ネックとなっているのはサハリン1、2の問題です。米英企業が撤退した後も、日本はエネルギー安全保障の観点から、撤退しない意向ですが、今後、欧米から大きな批判を浴びる可能性は排除できません。

また、エネルギー安全保障という観点を考えてみると、サハリン1、2の権利を捨てて、別の調達先を確保するには多額の資金がかかりますし、日本が抜けた穴に中国がスッと入り込む可能性が極めて高い中では、権益の維持は合理的に見えます。

しかし日本を「非友好国」に認定しているロシアにエネルギー依存するというのは、安全保障の観点からすれば、むしろリスクになります。そのため、この問題は、撤退によってロシアに与える効果も含め、総合的に考えていく必要があります。

中西 今回の戦争で今後どうなるかということは予測不可能ですが、やはりロシアが中国の「ジュニアパートナー」になっていくということ。そしてアメリカが中国を唯一の競争相手として見ていることも含めて、インド太平洋という地域が世界の中で重要性を増していくというトレンド自体は変わることはなさそうです。

日本はインド太平洋の中核にいる国の1つなので、インド太平洋と、NATOやアフリカやその他の地域がどう関わってくるかという観点からこの戦争についての対応を考えていくべきだろうと思います。



廣瀬陽子(Yoko Hirose)
慶應義塾大学総合政策学部教授。1972年生まれ。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程単位取得退学、政策・メディア博士(慶應義塾大学)。専門は国際政治、旧ソ連地域研究、紛争・平和研究。主著に『旧ソ連地域と紛争──石油・民族・テロをめぐる地政学』(慶應義塾大学出版会)、『コーカサス──国際関係の十字路』(集英社新書、2009年アジア・太平洋賞特別賞)、『ロシアと中国 反米の戦略』(筑摩新書)、『新しい地政学』(共著、東洋経済新報社)、『ハイブリッド戦争──ロシアの新しい国家戦略』(講談社新書)など多数。

山口 昇(Noboru Yamaguchi)
国際大学国際関係学研究科教授。1951年生まれ。防衛大学校卒業、陸上自衛隊入隊。在米大使館防衛駐在官、陸上自衛隊研究本部長などを歴任した後、2008年陸将で退官。在職間フレッチャー法律外交大学院修士課程及びハーバード大学オリン戦略研究所に留学。退官後、防衛大学校教授、国際大学国際大学研究所教授を経て現職。この間、2011年内閣官房参与(危機管理担当)、2017〜19年「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」委員などを歴任。専門は国際関係論。主な著書に『日米同盟と東南アジア──伝統的安全保障を超えて』(共著、千倉書房)など。

中西 寛(Hiroshi Nakanishi)
京都大学大学院法学研究科教授、アステイオン編集委員。1962年生まれ。京都大学大学院法学研究科修士課程修了、同法学研究科博士後期課程退学、シカゴ大学歴史学部博士課程留学。京都大学法学部助教授、ロンドン大学政治経済校(LSE)、オーストラリア国立大学(ANU)、スウェーデン国際問題研究所で客員研究員を経て、現職。専門は国際政治学。著書に『国際政治とは何か──地球社会における人間と秩序』(中公新書)、『戦後日本外交史』(共著、有斐閣)、『国際政治学』(共編著、有斐閣)など。


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 「アステイオン」97号
 特集「ウクライナ戦争──世界の視点から」
  公益財団法人サントリー文化財団
  アステイオン編集委員会 編
  CCCメディアハウス

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