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経済学

「協調性」は日本人男性のみに通用するという研究結果──非認知能力の重要性(中)

2022年06月20日(月)08時10分
中室牧子(慶應義塾大学総合政策学部教授/東京財団政策研究所主幹研究員)

この発見と部分的に整合的なのが、スウェーデンのデータを用いた研究だ[Lindqvist and Vestman, 2011]。この研究によれば、スウェーデンではすべての若者が軍隊に入隊する必要があるが、この入隊時に心理学の専門家による面接で計測された非認知能力のデータを用いて分析したところ、非認知能力は所得分布の低位でより重要であったことがわかっている。

特に下位10%の所得分布に位置する人々にとっては、非認知能力は認知能力の2.5倍から4倍もの効果がある。その理由は、非認知能力の高い男性は、失業する確率が低く、仮に失業したとしても、失業期間が短いからであることが示されている。

つまり、非認知能力は、経済的に不安定な人々が不測の事態に見舞われたときの「リカバリー」を可能にするということだ。

それでは高学歴の労働者にとって、非認知能力は必要ないのだろうか。アメリカで「ギフティッド」(Gifted)と呼ばれるようなIQの高い子供たちを、1920年代の初頭からずっと追跡してきた「ターマン・サーベイ」(Terman Survey)と呼ばれる調査がある。

前出のヘックマンの研究は30歳時点の賃金への非認知能力の影響を見ていたが、この研究では18~75歳というもっと長い人生スパンで見た場合、非認知能力の影響が何歳くらいの時に大きくなるのかということを調べている。そうすると、40~60歳の間で最も高くなることが示されている[Gensowski, 2018]。

また、ヘックマンの発見とは逆に、非認知能力は教育水準の高い男性にとって重要であり、中でもとりわけ「勤勉さ」の影響が大きいことが示されている。こうしたアメリカにおける研究成果は日本にも当てはまると考えてよいのだろうか。

明治学院大学の李嬋娟准教授と大阪大学の大竹文雄教授らの研究によると、「協調性」は日本人の男性労働者にとっては賃金にプラスでも、アメリカ人の男性労働者にとってはマイナスになると報告されている[Lee and Ohtake, 2018]。しかも、日本では大企業ほど、アメリカでは中小企業ほどこの傾向が顕著であることもわかっている。

つまり、国によらず非認知能力が重要であるということは一般論としては正しくとも、具体的にどの非認知能力が、どのような属性の人に、どのような影響を与えるのかということは丁寧に見ていく必要があるだろう。

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