アステイオン

座談会

総合雑誌から新書、そしてネットフリックスへ──拡大し続ける「論壇」

2022年01月21日(金)15時50分
大内悟史+小林佑基+鈴木英生+田所昌幸+武田 徹(※アステイオン95より転載)

■大内 ジャーナリズムとアカデミズムの接点の1つが論壇だと思います。しかし、専門家の取材や寄稿では申し訳ないことですが、「基礎知識がない一般紙の読者が読んで理解できるように」などと、わかりやすい文章表現をお願いすることがよくあります。限られた文字数でわかりやすさと厳密さを両立させる難しさがあります。

当然、取材する側の不勉強や論点の絞り込み不足などもあると思うのですが、わかりやすく簡単な言葉を引き出そうとあえてアホみたいな質問をしてしまうことも......(苦笑)。ただ、「重要な最新知見を何とかして広く伝えたい」と思ってのことですので、どうか私たち記者を「媒介役」として活用してほしいと思います。

■小林 僕たちは若手時代に「中学生が読んでも意味がわかるように書かなければ駄目」と叩き込まれるので、相当かみ砕いて記事にするよう心がけています。ですから、アカデミズムの方からすると「もっと複雑だ」、「わかっていない」と思われるかもしれませんが、読者数が影響していることは考慮していただきたいです。

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田所昌幸(Masayuki Tadokoro)/1956年生まれ。慶應義塾大学法学部教授。京都大学法学部卒業。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス留学。京都大学大学院法学研究科博士課程中退。博士(法学)。専門は国際政治学。主な著書に『「アメリカ」を超えたドル』(中央公論新社、サントリー学芸賞)、『越境の政治学』(有斐閣)、『社会の中のコモンズ』(共著、白水社)、『新しい地政学』(共著、東洋経済新報社)など。

■田所 ご指摘のように読者数は重要ですね。新聞社は何百万人もいる大衆的読者を相手にし、他方で学者たちが意識しているのは、限られた数の専門家コミュニティです。鈴木さんは、どうでしょうか?

■鈴木 アカデミズムを翻訳するのが我々ジャーナリズムの仕事なのだと思います。長くお付き合いをさせていただいている先生とは阿吽の呼吸で、書き換えをご提案することが可能な一方で、そうではない場合は距離感を測りかねて激怒されるという経験は何回もあります(苦笑)。

また、これは僕が論壇記者を目指した理由でもあるのですが、廣松渉の文章も上野千鶴子の文章も、生まれて初めて見たのは朝日新聞の文化面でした。全然何も知らない田舎の高校生が第一線で活躍する学者の文章を読む。そういう生の文章を届けることができるのが論壇の仕事の醍醐味や意味だと思います。

そのためにはやはり寄稿が一番いいのですが、表現や言葉遣いなどで炎上したときに責任が取れないなどの理由で近年は寄稿ではなく、インタビューを好む傾向がどの社にもあります。そういう意味では論壇らしくない記事が多く、面白くないと個人的には思っています。

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