先ほど政府は無策のそしりを免れないと書いたが、実はそうではない。仮に経済界が春闘で大幅な賃上げを決めるのなら、むしろ政府の出番はそこからである。企業が先に賃金を上げた場合、何もしなければ利益は確実に減少する。過去20年の日本企業がそうであったように、利益の減少に対して、非正規労働者の拡大による実質的な賃下げや、下請け企業への過剰な値引き要求など、安易なコスト削減に走らないよう政府は指導を強化していく必要があるだろう。

日本は形の上では、しっかりとした労働法制や下請け保護の法律が存在しており、既に環境は整っている。これらの法体系は有名無実化していた面があったが、政府はごく普通に法を執行するだけで、企業の経営に対して十分な影響力を行使できるはずだ。

企業による安易なコスト削減の道を閉ざしてしまえば、企業はリスクを取って先行投資を行うという、正攻法での業績拡大を目指すことになる。企業は、先に賃金を上げるという背水の陣を敷けるのか、政府は持っている権限を企業に忖度せず行使できるのか、いずれもトップの覚悟が問われている。

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