[東京 18日 ロイター] - 経済財政諮問会議議員の高橋進・日本総合研究所理事長はロイターのインタビューで、足元の物価上昇鈍化は、実体経済上、気にする必要はないと指摘し、日銀の物価目標2%の達成期限について、一般論として「2年」に区切らなくてもよいのではないかとの柔軟な考えを示した。
緩やかな景気回復を見通すなか、追加緩和の是非は「物価目標との兼ね合いで日銀がどう判断するかだ」と述べた。
夏までに策定する財政健全化策では、計画期間中の増税は2017年4月の10%への消費税率引き上げの1度だけで、さらなる増税はしない覚悟で経済再生と歳出抑制に取り組むとした。「増税ができると思うと歳出抑制は鈍る」と語り、「歳出抑制のスタンスを緩める考えは一切ない」と強調した。
<足元の物価上昇鈍化、実体経済上「気にする必要ない」>
原油価格の下落は「経済全体としてみればプラスだ」と指摘。円安についても「急激に円安が進むのはリスクがあるが、緩やかな円安であれば経済にとってそうデメリットがあるとは思えない」と語った。
輸入コストの上昇など円安によるデメリットは「原油安でかなり相殺されている」とも述べ、「先行きは、実体経済が良くなることで(経済の)体温が上がり、物価が上がると期待できる。足元物価上昇率が鈍化するということ自体、実体経済上はそう気にしなくてよい」との認識を示した。
ただ、それを踏まえた金融政策判断は日銀の専管事項と繰り返した。
<物価目標、一般論として「2年」に区切らなくても良い>
一方で、日銀の物価目標について、諸外国では特定年次・特定時期を掲げず、「中期的」目標として期限を区切っていないことなどを挙げ、「一般論として言えば、2年と区切らなくてよいのではないか」と語った。
日銀は2013年4月に、量的・質的金融緩和(QQE)を導入。2年を念頭に、できるだけ早期に2%の物価安定目標の実現を目指すとしてきた。しかし、原油価格の急落で、昨年10月には物価見通しの下方修正に追い込まれ、デフレマインドの転換が遅れることを懸念して追加緩和に踏み切った。目標達成時期についても最近では「15年度を中心とする期間は、前後に若干はみ出る」と微修正し、16年度にずれ込む可能性をにじませている。「2年」の物価達成時期にこだわれば、市場の追加緩和観測を惹起しかねない。
高橋氏は、デフレ脱却に向けた決意を示すうえで明確な目標を置くことは間違いではなかったとしながらも、QQE導入から3年目を迎える状況で、物価目標の時間軸について柔軟な考えを示した。
<実質賃金、4月以降プラスに>
16日発表された2014年10─12月期実質国内総生産(GDP)成長率は年率換算プラス2.2%と3四半期ぶりにプラス成長となったが、反発力に乏しい内容となった。
高橋氏は「消費の戻りが鈍いのは間違いない」としつつも、「緩やかな回復とのシナリオを変える必要はない」と指摘。横ばい圏にとどまった設備投資についても、好調な企業収益、更新需要、円安の継続で国内回帰が期待できることなどを挙げ、「足元弱いからといって懸念する必要はない」と指摘。内需にはリスク要因は見当たらないとした。
今後の鍵を握る実質賃金の行方については「4月以降、消費税引き上げ分がはく落することに伴い、プラスに転じることは間違いない」と見通し、「消費が徐々に回復することが期待される」と語った。
<財政健全化計画中の増税は1度、歳出抑制は一切緩めず>
夏までに策定する財政健全化の具体策に関しては、2006年の歳出・歳入一体改革の反省を基に経済再生と歳出抑制に取り組むとした。
2006年は、保守的な低い経済成長率を前提に目標実現のために不足する要対応額を試算し、公共事業や社会保障など項目別に歳出削減額を設定した。高橋氏は前回の手法の反省点として、1)歳出を削っていったが、結局経済が大きくならない中で目標がついえた、2)制度変更まで踏み込まないで目標数値の達成を目指したが、途中で挫折しデメリットが強く出た──ことを挙げた。
これを教訓に、今回は、1)成長戦略で経済を活性化させGDPを大きくすること、2)制度改正も含めて歳出抑制を進めること──の両面から進めるとし、「歳出抑制を緩和するということでは一切ない」と強調。「歳出を削り増税すればよい」との財政至上主義に陥るリスクに警鐘を鳴らし、経済活性化も重視する結果、基礎的財政収支(PB)対GDP比を年0.5%(額にして約2.5兆円)改善する手法をとると説明した。
一方、歳入改革に関しては、2017年4月に消費税率を10%に引き上げることは決めているが、「それ以外は増税しない覚悟で取り組む」と述べ、増税に頼らない姿勢を強調。「増税ができると思ったら、歳出抑制は鈍る。歳出抑制ができなくなり、経済活性化のインセンティブもなくなる」と語った。
<「財政健全化に緩み」との批判を否定>
「GDPを大きくすることで累積債務の比率を小さくすることになる。もう少し複合的にみていくことも必要かな、と思う」──。昨年12月22日の経済財政諮問会議での安倍晋三首相の発言が波紋を呼んでいる。
アベノミクスの成長戦略がうまくいけば名目GDPは膨らみ、債務残高のGDP比は小さくなる。足元、債務残高対GDP比が低下していることで、成長に依存し、歳出抑制にも歳入改革にも踏み込まないのかとの懸念が広がった。その後、安倍首相は「2020年度の基礎的財政収支(PB)の黒字化目標はしっかり堅持している」(16日衆院本会議での答弁)と繰り返すが、有識者の疑念はぬぐえない。
これに対して高橋氏は「足元、債務残高GDP比の上昇ペースが鈍くなり、中長期試算で若干下がり気味になっている最大の理由は金利ボーナスだ。超低金利で利払いが極めて圧縮されていることが大きい」とする一方、今後、金利正常化に伴い「これから先も同じことは期待できない」と警告。「債務残高GDP比だけを目標にしていくことはできない」と語った。
一方で、「債務残高GDP比にも目配りしていくことは必要」と述べ、首相発言の趣旨について「総理は複眼的な視点に言及したもので、財政健全化を緩和することを目的としているのではない」と反論。20年度にPB黒字化するとの目標に「何ら変更はない」とも語り、健全化目標の緩みを否定した。
そのうえで、夏までに具体的プランを出すということは「歳出にどこまで切り込んでいくかの答えを出すことだ」と語った。
インタビューは17日に行った。
(吉川裕子 スタンレー・ホワイト:編集 山川薫)