「人々はもはや当局を恐れていない。国家機関や政府機関は完全に破壊されたわけではないが、極端に弱体化している」と、無所属の国会議員、シニサ・リャポヤビッチは本誌に語った。ブチッチは「今や準軍事的な警察部隊を頼りにしているが、その多くはごろつき同然だ」

テニスのスターも抗議

セルビアはヨーロッパの最貧国の1つで、かつてこの大陸に吹き荒れた危機の震源地ともなってきた。第1次大戦の火ぶたが切られたのもセルビアなら、1990年代のユーゴスラビア紛争もここで始まった。

コソボ紛争の最中の99年にはNATOの空爆の標的にもなった。NATOはコソボのアルバニア系住民を守るためだと空爆を正当化したが、皮肉にも後にロシア(セルビアとは正教会で結ばれた歴史的な同盟国だ)がウクライナ侵攻を正当化するために同じ理屈を持ち出した。

ブチッチは外向けには危うい「八方美人外交」を展開している。EU加盟を求める一方で、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にも擦り寄り、昨年5月のモスクワ訪問時にはさらに親密な協力関係をアピール。中国にも同様の態度で、「一帯一路」計画の「強固な支持者」と見なされている。

「われわれは最も大きい声を持たないかもしれないが、しばしば最も明確なビジョンを持っている。東と西に同時に目配りできるからだ」と、ブチッチは昨年9月、国連総会で演説した。だが国内で高まる抗議デモはブチッチにとって最大の脅威だ。ブチッチは元指導者のスロボダン・ミロシェビッチの下で閣僚を務めていた。

始まりは駅舎の崩壊から