映画『この世界の片隅に』片渕須直監督
祖父が大阪府枚方市で映画館を営んでいたこともあり、幼い頃から映画が生活の一部だった片渕監督。『この世界の片隅に』公開後は、日本各地の160以上の映画館に訪れ、舞台挨拶を行った。その輪は世界に広がり、フランスや韓国の映画祭での上映会に参加するなど海外のファンとの交流も積極的に行う。

ただ、実際には戦時中に行われていたプロパガンダに従っていただけの主人公すずさんの生活ぶりについて肯定的なものとして捉える人も多く、特に海外での上映では、作品の背景にある現実の経緯についてまとめた副読本があってもよかったのかもしれません。

── 文化や歴史が異なる海外では、物語が正しく伝わらなかったと感じられたということでしょうか?

片渕: 実は、日本でも作品の背景まで深く考察できている人が少ないように感じています。海外ではなおさら、映画上映そのものとは別のアプローチも必要だったと感じました。

国際的な文化交流を促す国際交流基金のような機関と連携して、歴史的な背景や日本文化について伝える取り組みも、作品を正しく理解してもらうには必要だと感じています。

例えば、食糧難の最中、主人公のすずさんが野草を使って料理をするシーンがありますが「工夫をしながら生活を改善するための、前向きな努力」とみる人も多かったのです。しかし実際には、国策で野草を食べることを奨励されていたため、すずさんはただ言われるがまま行動していただけで......。

節米料理の「楠公飯(なんこうめし)」(※)も同様です。このように、物語の「背景」である現実の経緯にも目を向けて考察していかなければ、終戦時のすずさんの涙の理由を深く理解することは難しいのではないかなと思っています。

(※)楠公飯...鎌倉時代末から南北朝期にかけて南河内を拠点に活躍した武将・楠木正成が考案したとされる。炒った玄米を一晩水に吸わせた後、炊き上げてかさ増しする調理法。『この世界の片隅に』でも戦時中、供給量を稼ぐために糠を残した状態だった配給米を、食べる方法として登場した。

原作にも通ずる「あえて説明しない」信念