<引き算のような手法でナチスドイツの蛮行を描く――。カンヌでグランプリ(最高賞に次ぐ賞)、アカデミー賞で2部門を受賞したジョナサン・グレイザー監督の力作『関心領域』>

映画の中には、どう見るべきかを最初に教える作品があるが、『関心領域』は「見ない」ことを教えてくれる。

冒頭でタイトルが映し出された後、スクリーンは2分以上にもわたり真っ暗になる。劇場を包むのは、音楽を担当したミカ・レビによる不気味な不協和音だけだ。

第2次大戦末期に初めて連合軍によって映像に収められて以来、ナチスドイツが主にユダヤ人を虐殺するために建築・運営した強制収容所に関するドキュメンタリーや映画は数多く作られてきた。

イギリスの小説家マーティン・エイミスの原作に基づく『関心領域』もその1つだが、収容所の中で起きていることを見せる映画ではない。

ジョナサン・グレイザー監督が脚本も務めた本作は、アウシュビッツ強制収容所に隣接する地区(原題『The Zone of Interest』はこの地区のこと)に住んでいたルドルフ・ヘス所長と家族の、架空の日常を描いた物語だ。ただし、その架空性は極限まで抑えられている。

例えば、ヘス(クリスティアン・フリーデル)と妻ヘドウィグ(ザンドラ・ヒュラー)が住む家のセットは、かつて実際に所在した場所から約200メートルの所に造られた。カメラは家の中のさまざまな場所に隠して設置され、一般家庭で同時に起きていることが自然な形で撮影された。

収容所との間には壁が立っているから、その向こうで何が起きているかは、観客にも見えない。だが、不気味な機械音や銃声、そして叫び声を遮るものはない。夜になれば、遺体を処分する焼却炉の炎が空を真っ赤に染める。

それでも、ヘス家の日常は至って平穏で、満ち足りている。夫に転勤の話が持ち上がったとき、ヘドウィグは快適な暮らしを手放したくないと反対したほどだ。

常に感じられるその気配

俳優たちのドライな演技と、グレイザーの淡々とした描写(登場人物のクローズアップは1つもない)は、登場人物に共感しようとする私たちの癖を抑える。一方で、観客が都合よく物語から距離を置くことをグレイザーは許さない。

観客は随所随所で、収容所の中で起こっていることを想像するよう強いられ、どこかヘス一家の共犯者のような感覚にさせられるのだ。

この引き算のような手法は、ホロコースト(ナチスによるユダヤ人大虐殺)を抽象化してしまう危険をはらんでいる。その一方でグレイザーは、映画のためとはいえ、筆舌に尽くし難い蛮行を再構築することを、信念に基づき拒絶したと考えることもできる。

映画の終盤になって初めてヘスの思考が語られるシーンが...