数カ月後に初めて明かされた「本当」の雇い主

数日後、ロンドンに赴いた。ところがまだ「本当」の雇い主が誰なのかは知らなかった。プロジェクト開始から数カ月が経って初めて、筆者は自分が、MI6(英国秘密情報部)初となる「攻撃的(オフェンシブ)サイバーツール」の開発を支援するために招き入れられた、最初のインド人であることに気づいたのだった。

その後の10年間で、孤独なエンジニアから、情報機関のサイバー戦における戦略、ツール開発、人材、インフラを統括する幹部へと昇進した。筆者は、価値の高いゼロデイ脆弱性(セキュリティの未知の欠陥)を現場で使うかどうかについて、サー・リチャード・ディアラブやサー・ジョン・スカーレット(どちらも歴代MI6長官)に判断を仰いだこともある。

一方で、20代のインド人が英国のサイバー攻撃能力の大部分を動かしているという事実は、ホワイトホール(英政府中枢)で眉をひそめさせ、一部の新聞で批判を浴びたこともあった。

とはいえ、MI6では、リスクが「地政学」で測られる世界における本物の脅威インテリジェンス(サイバー空間の脅威分析)とはどのようなものかを学んだ。MI6で学んだサイバー工作の「実態」をいくつか紹介しよう。

海底ケーブルの修理スケジュールを知って、世界的なルーターの供給網さえ支配してしまえば、ネットワークとオンラインを隔てるエアギャップ(物理的遮断)、機密ネットワーク、さらにシステムをオフラインにしても、それらは「障壁」ではなく単なるスピードバンプ(減速帯)に過ぎない。

10年の勤務を経てMI6を去った