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レジリエンスを育てるには人とのつながりが大切 NOAM GALAI/GETTY IMAGES

市内で8つの病院を運営するマウント・サイナイは一時期、2200人もの患者の治療に当たっていた。病院スタッフの精神面への影響は深刻だった。ニューヨークの現場の最前線で働く医療従事者3360人を対象にした調査では、鬱病やPTSD、全般性不安障害の臨床基準に合致する人の割合が40%近くに上った。

チャーニーは同僚と共に、直ちにストレス・レジリエンス自己成長センターの創設に動いた。新型コロナが医療従事者のメンタルヘルスに与える「心理社会的」影響に対処するクリニックだ。同センターでは、現実的楽観主義など、チャーニーのアイデアに基づくプログラムを実施している。

こうした手法は子供や親、教師がこれから始まるとりわけ困難な新学年に立ち向かうためのヒントになる。

チャーニーによれば、プログラムの中でおそらく最も効果的なのは、つらい出来事を振り返り、よりポジティブな視点で捉える「トラウマの再評価」だ。「出来事を見つめ、なかったことにはできなくても見方は変えられると認識する。起きたことを自分という人間の一部にして、前に進むことは可能だ」

チャーニーの手法には、学習性無力感を「発見」したセリグマンの研究と共通するものがある。

「ポジティブ心理学」の祖

セリグマンは、楽観主義者特有の性質を教授可能なスキルに変える方法を追求してきた。子供や大人が逆境の中で自分を守ったり、鬱病リスクを低減するためのスキルとして教えることはできないか──。

現在では、セリグマンは「ポジティブ心理学」の祖として知られている。精神的に最も健康的な人々に、成功をもたらす心理的特徴の分析に焦点を当てる学問分野だ。

従来の心理学は精神障害患者のレジリエンスの研究に偏り過ぎていると、セリグマンはみる。大半の人のパンデミック体験を理解する上では、あまり役に立たないという。

セリグマンの研究によれば、人間は2つの異なった状態を揺れ動く傾向にある。沈滞状態と繁栄状態だ。

沈滞に陥ると、セリグマンが頭文字を取って「PERMA」と名付けた5つの要素(ポジティブな感情、社会への働き掛け、人間関係、意義の確認、達成感)が低下する。「沈滞状態を定義するのは、高度の不安や鬱の存在ではなく、ポジティブな要素の不在だ」

セリグマンらはこの20年間に、PERMAを高める10以上の手法を開発してきたという。いずれも効果は研究で証明済みだ。

哺乳類の脳に植え付けられた無力感
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