永遠に続く交渉の中で自らの劣勢を認識した場合、英政府は国内での立場を守るためにEUを悪者に仕立てようとする。そして政府が不満を感じる問題で妥協を余儀なくされれば、国内のEU懐疑主義をさらにあおることになる。

これは過去28年間にスイスがたどった道だ。92年当時、スイス国民の半数近くはEU加盟に前向きだったが、今ではその割合ははるかに少ない。EU加盟を積極的に訴える政党もない。

スイス政治における議論は、「EU加盟のメリット」から「外にいながら交渉で何を得られるか」に変わった。EU加盟の是非を論じる人は「論点がずれている」か「本当に取り組むべき問題から目をそらしている」と見なされる。親EUだった左派政党も、今はEU加盟を口にしない。

EUの政治家たちはイギリスとの離脱交渉の大詰めに発表した声明の中で、イギリスの離脱を遺憾に思うとしつつ、いつかこの国の新たな世代が再びEUの扉をたたくことへの期待を表明した。だがスイスの歴史が参考になるなら、その可能性はなさそうだ。

いずれ市場アクセスの問題が緩和され、イギリス経済が復活の足掛かりを見つける可能性は高い。しかしそれには、イギリスが今以上にEU懐疑主義に染まるという代償が伴うだろう。

From Foreign Policy Magazine

<本誌2021年1月26日号掲載>

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