大統領が表彰した側近もリストに名前?

こうした麻薬関連犯罪に対する捜査現場での令状や命令、許可なしの発砲で容疑者を射殺する超法規的措置による厳しい取り締まりが現在も続いており、ドゥテルテ大統領の2016年6月の就任以来これまで殺害された容疑者は警察発表で約6000人とされているが、人権団体などでは実数にはその「約5倍」と見積もっている。

捜査に名を借りた麻薬売人同士の争いや証人を消すための殺人、麻薬と無関係の殺人なども横行しているためとされている。

こうしたなか、ドゥテルテ大統領から麻薬捜査で功績を上げて表彰を受けた幹部警察官に対する麻薬関連疑惑が新たに浮上する事態になっている。

麻薬汚染地帯として知られたミンダナオ地方東ミサミス州バコロド市で麻薬犯罪に関連した疑いが浮上していた市長を射殺したり、西ビサヤ地方イロイロ市の麻薬組織のボスを射殺したりと数々の功績をあげたことでドゥテルテ大統領から表彰を受けたこともあるバコロド警察署副署長のエスペニド警視補が2月になって突然解職に追い込まれた。

2017年8月にイロイロ市警察署長に異動するエスペニド氏に対してドゥテルテ大統領は「逮捕の際に抵抗するバカは殺してもよい」と公の席で指示しており、当時は人権団体などから「殺人許可を与えるなど人権問題だ」と批判を浴びたこともある。

しかし深刻な麻薬問題への強硬なドゥテルテ大統領の施策は国民の間では高い評価を得ており、2020年に入ってからもその支持率は依然として80%近くを維持している。

2020年2月に新たに更新されたという麻薬犯罪関連容疑者リストの中にそのエスペニド氏の名前が記載されているとの情報が流れ、警察幹部の判断で捜査の第1戦から退かせたもので、今後エスペニド氏は麻薬捜査の対象になる可能性が高いという。

情報を聞いたドゥテルテ大統領はパネロ報道官を通じて2月14日に「報告は真実でないと考えている」と反発しているというが、エスペニド氏に関する麻薬関連捜査の着手には許可を与えたという。

ドゥテルテ大統領とともに麻薬捜査の陣頭指揮を執っていた国家警察のアルバヤルデ前長官は2019年10月に辞任している。警察の組織ぐるみとされる押収麻薬の横流し問題への関与疑惑が浮上したのが辞任理由とされている。

このように麻薬事件関連容疑者の逮捕、射殺が続く一方で、容疑者リストに名前があるとされる地方市長や町長の殺害事件、さらに警察内部の容疑者に対する捜査の着手など、ドゥテルテ大統領の「麻薬に手を染めたものは身内でも許さない」とする断固とした姿勢は容疑者が警察幹部でも決して揺るぐことはない。

リストに名前がある、ないということが「心にやましいところがある、身に覚えがある」という人々を戦々恐々とした恐怖に陥れており、まさにドゥテルテ大統領の思惑通りの麻薬撲滅作戦が進んでいるともいえるのが今のフィリピンである。

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[執筆者] 大塚智彦(ジャーナリスト) PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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