現場でやった試行錯誤が、自分の教科書になった。

――その『中村仲蔵』にも顕著ですが、仲蔵の幼少期を冒頭に短くインサートするなど、松之丞さんの演出には映像的なセンスを感じることがあります。

松之丞 東京だといまはあのやり方にしていますけど、これが地方のお客様だと、ああいう演出をやっても理解されないかもしれないんです。なので、地方では『中村仲蔵』の前半はすべて滑稽にしています。まずは笑わせる、という。最近思ったんですけど、お客様に合わせてチューニングを変えることも、芸にとってはかなり大事なことなんですよね。芸人はあまり自らはそういうことを言ったりしませんが、できる人はみんなチューニングを何パターンか用意しているんですよ。僕の場合、11年目にしてようやくそれを実感するようになりました。

――それは、松之丞さんにとっていまチューニングが必要な段階になった、ということなんじゃないでしょうか。

松之丞 これまでも客層に合わせることがなかったわけではないんですよ。ただ、いま思えばすごく粗かった。同じ相撲の話でも、「年配にウケるのは『雷電の初土俵』、若い人にウケるのは『谷風の情け相撲』。今日はどっちをやろうかな」ぐらいのざっくりとした使い分けだったので。最初からそこは教わっておきたかったとも思うんですけど、でも同時に、現場で数やってみて、初めて学べることでもあるんですよね。そうやって自分でつくった教科書も、芸になっていくんだなと思いました。

――松之丞さんの講談について言うと、人物の躍動感にも驚かされます。アクションあり、心理戦あり。特に会話のテンポは際立っていますね。

松之丞 講談って「ト書きの芸」みたいに言われたりもしますが、そういうことだけでもないと思うんです。ト書きだけでお客様にイメージを浮かばせるって、相当うまい人でないと難しいですよ。若いうちはほとんど無理でしょう。お客様にしても、マニア以外は、会話がないと話の筋が入ってこないと思います。なので、こちらとしても、会話でどう惹きつけるかっていうのは考えますね。

――講談の客層については、いまどう見ていますか。

松之丞 講談と落語の垣根はなくなりつつあるかなと思っていますね。嫌な言い方をすれば、落語の持っているパイを、講談のほうに誘導することができたと思います。そうやって講談にも若い客が入ってくる中で、次の段階として、実はずっと悩みの種だったのが、なかなか新弟子が入ってこないという問題でした。ただ、それも解決して、ここ数カ月で5人も入門してきたんですよ。しかも、そのうち20代の男性が3人。ようやくここまで来たぞ、と。これで僕もけっこう肩の荷が下りた感じがします。ここ2、3年、フワフワしてはいますけど、やるべきことはやってきたなっていう。講談の入り口からの流れは作って、入門者も増えたので。あとは奥行きの凄さを先生方が見せてくれるかなと。

●抜粋第2回:松之丞改め六代目神田伯山の活躍まで、講談は消滅寸前だった
●抜粋第3回:爆笑問題・太田光が語る六代目神田伯山「いずれ人間国宝に」「若い子も感動していた」


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2019年12月2日に行われた真打昇進襲名披露に向けた記者会見では、会見場にテレビカメラがずらりと並んだ。2020年2月9日には披露パーティも開かれ、講談界や落語界、芸能界から約380人が出席して祝った。2020年2月11日、真打昇進襲名披露興行の大初日、寄席の新宿末廣亭には多くの客が駆け付け、満員札止となった。なぜ彼はこれほどまでに注目を集めるのか。